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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『君の名は。』感想

気になるところはありつつも勢いで面白く見させられた、みたいな映画だった。前半は入れ替わりをコミカルに描き、後半にはディザスタームービーの要素も加わるのが予想外。あと実は入れ替わりというよりもタイムリープこそが重要なのねこの映画。時間や時代を隔てたすれ違いという設定を持つ作品はいくつかあれど、「三年」という差もあまり見ない気がして新鮮で面白かったです。声優も良かった。主役の二人は合ってたし、他にも長澤まさみが上手くて驚いた(奥寺先輩が可愛すぎる)。

しかし三葉が入れ替わりの対象になったのは分かるけど、瀧はよく分からんままなんだよな。瀧じゃなきゃならない理由がないような。あと記憶が薄れていくという設定は二人のすれ違いを盛り上げるためだけに安直に作られた感じがあり、見ている最中も引っ掛かりはあった。映像美とキャストの熱演もあり、見せ方が巧みだからか盛り上がりはするんだけど、それはそれとして「なんで忘れていくの?」という疑問は消えないまま見てしまうという……。

そして今回もRADWIMPSの曲を大量に使っていたけど、ここまでやられると胃もたれするなやっぱり。私は『すずめの戸締まり』、『天気の子』と来て最新作から遡るように新海誠作品を見ているから『天気の子』での曲の使われ方には驚いたけど、こういうあざとい演出はあまり好みじゃないかもしれない。一曲だけなら浸れたと思うけども。

『アイの歌声を聴かせて』感想

上映当時から評判は聞こえてきたものの、『サカサマのパテナ』が合わなかったので過度な期待はしないで見た。やはり想像を越えてはこなかった。いい映画だとは思うけど、好みじゃなかった。序盤で合わないだろうなという気配を感じたけど、キャラクターデザインを含めても作品から漂う古さにも馴染めなかった。ミュージカルパートも気恥ずかしかったけど、それはストレートな歌詞の存在も大きかったと思う。

キャラクターもあっさりAIを乗っ取るシオンが私には恐ろしいとしか思えず、一応物語ではAIの恐ろしさも描いてはいるけど結局「シオンなら大丈夫」みたいな話で終わるので、その点でも合わないなと感じた。あと荒れた時の母親の美津子がだいぶ酷いんだけど(というか普段から色々あかん母親だと思う)、そこはクライマックスの勢いで流された感じもあってスッキリしない。ツダケンのねっとりボイスが印象的な支社長が悪役として描かれているけど、彼の方が正しいんじゃないかと思えてしまうのが……。あと変な時間にヘリでやってくる会長はなんやねん。

土屋太鳳の歌声は素晴らしかった。こんなに上手い人だったとは知らなかったな。ソーラーパネルのシーンも、彼女の歌声の威力があってのことだと思いました。

『逆転裁判』感想

ゲーム版は『逆転検事2』までプレイしたけど、映画版も欠点は多いものの思ったよりは楽しめました。

まず成宮寛貴成歩堂がはまっていたのが大きかった。頼りないところもあるけど、やる時はやる熱い男を好演していたと思います。柄本明のサイバンチョも独特の抜けた感じが出ていたし、斎藤工の御剣は最初はミスマッチかなと思ったけど徐々に結構いいかもしれないなと思えてきた。逆に女性陣は合っておらず、特に桐谷美玲の真宵ちゃんは最後まで馴染めなかったな……。この映画で彼女がほぼ空気だったのは、良かったのか良くなかったのか。あと各キャラクターは説明をするのに精一杯で、せっかくの個性が活かされてないのも残念でした。成歩堂は法廷で輝けるけど他のキャラクターは結構悲惨で、御剣ですら大人しいなと思ってしまった。更に事件も裁判も駆け足で進むので、原作を知っていてもついていくのが大変だった。映画ではなくドラマでやった方が良かったよーな気も。

それでも原作が名作なのは確かなので引き込まれはするし、少なくても退屈はしなかった。証拠品を空間に投影する演出もいいよね。灰根が自殺してしまったサユリの姿を見てしまうシーンも印象に残っていて、あそこだけしっかりホラー映画になっていたのが面白すぎる。一方、罪を暴かれた後の狩魔検事のシーンの謎カットや法廷にいるみんながずっこけるギャグなどしょっぱい演出もあり、そこはあまり好きじゃなかったな。とはいえ終わってみると何故か嫌いにはなれない作品で、久しぶりにゲームの方もプレイしたくなりました。

『ニューヨークの恋人』感想

ヒュー・ジャックマンが英国貴族! メグ・ライアンが可愛い! よし撮れ高MAX! みたいな感じの映画だった。SF要素は理屈がよく分からなかったけど、そこはまあ雰囲気でいいのだと思う。ストーリーも雑で転結が跳ねないけど、その分役者とキャラクターが良かった。特に誠実で優しく頭も良く教養も気品もあるレオポルド侯爵が魅力的で、白馬に乗ってひったくりを追うところもベタでいいよね。屋上のディナーのシーンも良かったな。見栄っ張りなJJをムキになったレオポルドが大人気なくやり込めるところも好き(JJは悪い人ではないし、クライマックスも含めると二度も顔に泥を塗られているのが気の毒だとも思う)。適当に精神科に入れられた節のある可哀想なスチュアートや、レオポルドに好きな女の子への接し方を指南されるチャーリーもいいキャラしてました。

一方、ケイトは魅力がよく分からず、レオポルドが何故彼女に惹かれたのかも謎だった。スチュアートたちに急かされるようにして過去に飛んでしまう最後も、重大な決断を本人がさせてもらえないまま流されているように見えて「ええんか?」とモヤモヤする。そもそもレオポルドの家の借金の問題が棚上げされているけど、ケイトというよりメグ・ライアンが安定して可愛かったのでまあまあオッケー。

『天気の子』感想

天気の子

天気の子

  • 醍醐虎汰朗
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良かったところもあるけど、結局私にとって好きな作品にはならなかった。ストーリーにメリハリがないのが最大の要因だと思うけど、なんか乗り切れないんですよね。銃が出てくるシーンも違和感しかなくて、あれは必要なアイテムだったのかなと首を傾げてしまう。後半の挿入歌ラッシュもくどくて冷めてしまった。一方、キャラクターが深掘りされてないことはあまり気にならなくて、これは私が主役の二人に興味を持てないから気にならなかったのか、掘り下げが浅いから二人に興味を持てなかったのか、もはや分からん。

良かったのは須賀役の小栗旬で、声優をやらせてもこんなに上手い人なのかと驚いた。夏美役の本田翼もぴったりだった。あと新海誠といえば「エモーショナルな映像美」だと思うけど、今回は新宿や池袋などの実景の描き込みが素晴らしかった(「バーニラバニラ」が流れるのは笑った)。浸水した街の中で半地下にある須賀の事務所の窓が『パラサイト』でも見たような光景になるところもちょっと面白い。私はいわゆる「浸水都市」が大好きなので、終盤の光景にはそそられました。逆にクライマックス周辺の映像や展開には既視感もあり、然程魅力を感じなかった。

結末は面白いなと思った。世界を変え、人々の生活の有り様すらも変えてしまった罪をずっと背負っていくのだろうし、いわば帆高と陽菜は共犯関係でもあるんですよね。が、そういうのは大好物なのにそれほど刺さらなかったのは、やはり二人にあまり興味を持てなかったからかもしれない。須賀や夏美、凪先輩は面白いキャラクターだと思ったけど、やはり主役への関心が持てないままだと山場で盛り上がれないようです。

『レスラー』感想

レスラー界のスーパースターがピークを過ぎてボロボロになりながら、それでも戦うことをやめられない姿が痛々しく切なかった。ランディの現状は己の身勝手が招いた結果でもあるんだけど、不器用な彼を嫌いになれないのはミッキー・ロークが演じていたからだろうと思います。寂寥感のある大きな背中がぐっと来るんですよね。最後の戦いでラム・ジャムを決める前にちらっと入場口を見て、キャシディがいないことに気づいた時の表情にも泣けた。スーパーの惣菜屋を担当する一連のシーンも良かった。キャシディを演じたマリサ・トメイも魅力的だったし、キャスティングが大当たりな映画でもありました。

あと普段プロレスをまったく見ないので知らなかったけど、試合の方向性や演出などを対戦相手やスタッフと打ち合わせするのが面白かったな。試合後も互いを労ったり讃えあったりしているのが微笑ましい。みんな優しいよね。でも演出とはいえ、ステープルを打ち込んだり有刺鉄線が刺さったりする流血マッチは見ていてしんどかった。ちょっと見るのをやめようかと思ったもんな正直。でも最後まで見て良かった。

『ノーカントリー』感想

エンタメの定石を敢えて外すというか、カタルシスに酩酊できるタイプの映画ではないしストーリーも地味なんだけど、見終わった後に「この映画は結構好きだな」と思えた不思議な作品でした。トミー・リー・ジョーンズハビエル・バルデムジョシュ・ブローリンウディ・ハレルソンと、錚々たる渋いキャスト陣もいいよね。

予想を裏切られたところもあり、例えばモスとシガーは一瞬だけ近づいて互いに傷を負わせるものの、クライマックスで展開されそうな「絵になる対決シーン」はない。むしろモスはいつの間にか殺されてて驚いたもんな。最後も無敵の死神のようなシガーが突然事故に遭ったり、エドの語りからプツッと切れるように終わったりと、なんか人を食ったような映画なのにそこが妙に面白いと思える。

見る前から評判が聞こえてきたハビエル・バルデムは『マザー!』の異様な旦那役の印象が強く残っていたけど、確かにシガーのキャラクターも魅力的で良かった。ボブカットも珍妙なんだけど、その後ろ姿が可愛いのがじわじわ来る。高圧ボンベ付きのエアガンという得物も独特でいいよね。死神に追われるモスも、今まで見てきたジョシュ・ブローリンの役の中でも一番色気があったと思う。そして私の中で誰よりも印象に残ったのが、エド保安官の無力感に苛まれる姿だった。この映画はモスでもシガーでもなくエドが主人公だったのだと最後になって気づいたけど、傍観者にしかなれない彼が主人公だからこそ、『ノーカントリー』は不思議な魅力を持つ映画になったんだろうなと。モスやシガーが主役だったら「サイコパスが強烈なだけの映画」で終わっていたと思う(でもこちらの方が好みだという観客も多そうではあるよね)。

ノーカントリー』の悲観的な世界は『セブン』に少し似ていて、秩序を守るべき人間が何も出来ずに絶望しているという点でも共通している。エド保安官を見ていたら『セブン』のサマセットを思い出したんですよね。それぞれの作品で世界を支配しているのが「暴力」と「無関心」、舞台も「渇いた荒野」と「雨の絶えない街」とで異なるところもあるのがまた面白いなと。