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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『真夏の方程式』感想

家族の抱える秘密が暴かれていくことによる悲劇を湯川先生が解いていくミステリなんだけど、それ以上に人間ドラマとしても秀逸で素晴らしかった。『容疑者X』は面白いとは思うものの評判ほどには刺さらなかったけど、こちらは刺さった。ロケーションもいいし、夏の暑さも伝わってくるし、夏が美しい季節だったのだと改めて気づけた。何より湯川先生と少年の交流に魅力があり、少年のひと夏の苦い大冒険と成長物語としても面白かった。そしてその成功は一つ一つのエピソードを丁寧に組み立てていったが故だと思います。キャストの演技も良かった。敢えて不満を挙げるなら、それぞれの殺害の動機がやや唐突に感じられたところくらいかなと。

印象的だったのがやはり偏屈な湯川と無邪気な恭平の交流で、特に二人がペットボトルロケットを飛ばして海中を見るシーンは最高。イエローのペットボトルロケットと、ブルーの空と海の絵も美しい。紙鍋の時も二人のやり取りが可愛いし、後半の会話が恭平の知らぬところで不穏になっていくのもいい。あれはゾクゾクした。

しかしまだ幼い甥っ子に犯罪の片棒を担がせる今回の犯人はひっでえな。マジックミラー越しの親子の対面にはぐっと来たものの、一方で無関係の恭平が利用されてしまったのがむごい。エンディングの電車で、一人苦悩する恭平が可哀想やら切ないやらでもう……。自分のやってしまったことに気づき、半泣きで湯川を探し回る姿に泣けた。これ以上の秘密の連鎖は、幼い子供が押し付けられるには重すぎる。しかし恭平に対して子供を守るべき大人として接しながら、同時に恭平の意志をちゃんと尊重しようとする湯川に好感が持てました。ドラマ版も見てみようかな、という気になった。

『容疑者Xの献身』感想

ドラマ版は未視聴だけど、この映画を見る分には問題なかった。

タイトル通りの内容だけど、献身は究極の自己満足でもある、という独善的な面も描いていたのが良かった。その描かれ方がまた優しく残酷で、それが最後の遣る瀬無さに繋がっていくのがいいよね。石神の献身に対する、友人である湯川先生の葛藤と隣人である靖子の苦悩も美味でした。あと事件と直接関係のないところでは、女性というだけでいいように使われたりする薫の生きにくさが描かれていたのも印象に残っています。

しかし雪山のシーンは不自然すぎん? あれは余計なよーな……。

『スピード』感想

最初のエレベーターでの事件から、『新幹線大爆破』の影響が見られるバスの走行、最後の地下鉄でのアクションまで、とにかくアイデア満載て緊張感が途切れないのがすごい。それに加え、王道を突き詰めたようなストーリーとキャラクターが合わさって気持ちいい。ひたすらエンタメとスピード感を突き詰めたような作品で、キアヌ・リーブスが若いのも相俟って瑞々しいパワーに満ちているようでした。ここまでやられると見ている方も疲れてくるけど、この疲れが逆に心地良いとすら思える。あとキアヌが演じると、どんなに暑苦しい展開になっても主人公が最後まで爽やかだったのが面白かった。デニス・ホッパーの演じる犯人も憎たらしい感じが出ていてよかった。

難を言えば、バスから脱出した後は消化試合感がある。これまでノンストップで面白い映像を見せられてきたから(飛行機に突っ込んだバスの爆発シーンも迫力があったから尚更に)、地下鉄に乗った時は「まだやるんかい」と突っ込んでしまった。まあそれでも最後まで面白かったけども。主人公とヒロインのキスで締めるラストも、この時代特有の無敵感が漂ってて微笑ましく眺めてしまった。が、それはそれとしてこの二人からはすぐ別れそうな気配もあり、そういうところを含めてタイトル通りスピード感のある映画でした。

『ヘンゼル&グレーテル』感想

大人になったヘンゼルとグレーテル兄妹が悪い魔女をやっつける、というシンプルなダークファンタジーアクションで、童話を知らなくても問題ないくらいに頭空っぽにして見れる。というか童話要素はなくても問題なさそーな……。でもヘンゼルが大量のお菓子を魔女に食べさせられたので糖尿病にかかっている、て設定は斬新だなと思った。

正直ストーリーは毒にも薬にもならんような内容だし、強いていえばゴア要素を含むアクションに寄せた映画なんだけど、そのアクションのテンポがちょっと悪いのと画面の暗いシーンが多いのが難点でした。あと武器は色々出てくるのに、兄妹が特別強いという感じでもないのはちょーっと物足りない。

『パフューム ある人殺しの物語』感想

天才的な嗅覚を持つ男の物語なんだけど、とにかく凄まじい映画だった。でも単純にストーリーが面白かったし、ぶっ飛んだところもあるけど私は好き。匂いを映画で表現するのはかなりハードルが高いと思うけど、そこにも真っ向から挑戦しており、冒頭の掃き溜めのような市場のシーンから濃厚な悪臭が感じられるようでぐいぐいと引きつけられました。

特筆すべきは、異常な嗅覚を持っているくせにグルヌイユ自身には体臭がないところで、だから彼は難なく娘に近づいて殺せてしまう。犬ですらグルヌイユに気づけない。ただ、今にして思えば冒頭の赤毛の女性だけがグルヌイユに気づいて振り返り、声もかけているんですよね。グルヌイユが人との接し方を知らなかったので結局誤って殺してしまったけど、これはグルヌイユにとっても悲劇だったのだと思います。あの大乱交の時ですらみんなグルヌイユ本人を見ていなかった。だから彼は絶望し、「愛」を得られない街で不用意に「愛」を振りまくという自殺行為に及んだ。最後まで空虚で孤独な主人公でした。

他のキャラクターも面白い。バルディーニ役がダスティン・ホフマンで驚いたけど、はまり役だった。コントみたいな最期にはつい笑ってしまったけど、バルディーニだけでなくグルヌイユを手放した瞬間にみんな死んでいくのがまた……。グルヌイユは天使でもあり死神でもあるんだなと。後半に登場するリシ役のアラン・リックマンも素晴らしかった。理不尽なくらいに自由を奪ってまで娘の守りを固めたつもりなのに、結局娘が犯人の餌食になってしまった時の嘆きの表情に見入りました。

語らずにいられないのはやっぱりクライマックスの処刑場での狂乱で、ギャグと紙一重の展開ではあるしここで萎える人は絶対にいると思うんだけど、単純に物量が凄まじいのでこれはこれで面白いと思ってしまった。こんな作品は他になかなかないだろうしな(あってたまるか)。その後の都合の悪いことを無かったことにする衆愚の描写や、グルヌイユが「消費」される結末に至るまで寓話的で、私は思った以上にこの映画が気に入ってしまった。

『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』感想

元気をもらえる映画だった。3DCGは洗練されているとは言えないけど、テニスの動きは門外漢な私が見る分には自然だと思えたのでオッケーなんじゃないですか。むしろ『THE FIRST SLAM DUNK』の時もそうだったけど、スポーツの臨場感を演出するには3DCGで表現するのが最適なんだろうなと改めて実感した。だからこそ試合シーンが少なかったのは残念だけど、元々『テニプリ』はミュージカルが強いコンテンツなので、ミュージカルを推していくのは自然ではあるんですよね。実際、ミュージカルパートは楽しかった。顔を包帯でぐるぐる巻きにされているのに溌剌と踊る乾とか、教会での『ラ・ラ・ランド』みたいなリョーマと桜乃とか(ポニテ桜乃が可愛かった)、クライマックスの時空を越えてガチャみたいな演出で召喚される手塚部長たちとか、謎にソロパートを与えられた柳生とか(いや柳生は好きだけど、ここで美味しい役を与えられるようなキャラクターだと思ってなかった)。

ストーリーも越前親子の王道物語でシンプルに盛り上がれるし、南次郎の引退も破天荒な彼らしい理由で良かった。エメラルドや部下三人(特にウルフ)もいいキャラしてて、キャラクターの立たせ方が上手い『テニプリ』らしい強みが発揮されていたように思います。

ちなみに『Decide』を見てその後『Glory』の差分のシーンだけ見たけど、『Decide』の方が自然かなやっぱり。

『思い出のマーニー』感想

ラストはじーんと来るものがあったしいい映画だと思うけど、面白くはなかった。中盤は特にフワフワした展開が続いて今ひとつ話に没入できないのと、杏奈とマーニーにあまり興味を持てなかったのが大きかったのかもしれない。卑屈な性格は理解できるところもなくはないのに杏奈は刺さらない主人公だったし、マーニーに至っては個性が薄く登場の瞬間から気持ちが冷めてしまった。

しかしマーニーは杏奈のイマジナリーフレンドかと思ってたんだけど、杏奈がそのことに自覚的だったのは意外だった(イマジナリーフレンドでもなかったけども)。杏奈がすぐマーニーには心を許したのが謎だったけど、あれはおばあちゃんだったからなのね。なるほどー。

あとおばさんがお金をもらっている件については、要するに養育費だと思うんだけど、杏奈がそこでネガティブな受け止め方をしていたのがよく分からなかった。ラストでおばさんが杏奈にいきなりお金のことを話すのも、ちょっと奇妙といか。タイミングが変だし、そもそもお金のことなんて別に言わなくても問題ないと思うんだけどな……。私が孤児だったら理解できたのかもしれないけども。