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『パフューム ある人殺しの物語』感想

天才的な嗅覚を持つ男の物語なんだけど、とにかく凄まじい映画だった。でも単純にストーリーが面白かったし、ぶっ飛んだところもあるけど私は好き。匂いを映画で表現するのはかなりハードルが高いと思うけど、そこにも真っ向から挑戦しており、冒頭の掃き溜めのような市場のシーンから濃厚な悪臭が感じられるようでぐいぐいと引きつけられました。

特筆すべきは、異常な嗅覚を持っているくせにグルヌイユ自身には体臭がないところで、だから彼は難なく娘に近づいて殺せてしまう。犬ですらグルヌイユに気づけない。ただ、今にして思えば冒頭の赤毛の女性だけがグルヌイユに気づいて振り返り、声もかけているんですよね。グルヌイユが人との接し方を知らなかったので結局誤って殺してしまったけど、これはグルヌイユにとっても悲劇だったのだと思います。あの大乱交の時ですらみんなグルヌイユ本人を見ていなかった。だから彼は絶望し、「愛」を得られない街で不用意に「愛」を振りまくという自殺行為に及んだ。最後まで空虚で孤独な主人公でした。

他のキャラクターも面白い。バルディーニ役がダスティン・ホフマンで驚いたけど、はまり役だった。コントみたいな最期にはつい笑ってしまったけど、バルディーニだけでなくグルヌイユを手放した瞬間にみんな死んでいくのがまた……。グルヌイユは天使でもあり死神でもあるんだなと。後半に登場するリシ役のアラン・リックマンも素晴らしかった。理不尽なくらいに自由を奪ってまで娘の守りを固めたつもりなのに、結局娘が犯人の餌食になってしまった時の嘆きの表情に見入りました。

語らずにいられないのはやっぱりクライマックスの処刑場での狂乱で、ギャグと紙一重の展開ではあるしここで萎える人は絶対にいると思うんだけど、単純に物量が凄まじいのでこれはこれで面白いと思ってしまった。こんな作品は他になかなかないだろうしな(あってたまるか)。その後の都合の悪いことを無かったことにする衆愚の描写や、グルヌイユが「消費」される結末に至るまで寓話的で、私は思った以上にこの映画が気に入ってしまった。