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『ノーカントリー』感想

エンタメの定石を敢えて外すというか、カタルシスに酩酊できるタイプの映画ではないしストーリーも地味なんだけど、見終わった後に「この映画は結構好きだな」と思えた不思議な作品でした。トミー・リー・ジョーンズハビエル・バルデムジョシュ・ブローリンウディ・ハレルソンと、錚々たる渋いキャスト陣もいいよね。

予想を裏切られたところもあり、例えばモスとシガーは一瞬だけ近づいて互いに傷を負わせるものの、クライマックスで展開されそうな「絵になる対決シーン」はない。むしろモスはいつの間にか殺されてて驚いたもんな。最後も無敵の死神のようなシガーが突然事故に遭ったり、エドの語りからプツッと切れるように終わったりと、なんか人を食ったような映画なのにそこが妙に面白いと思える。

見る前から評判が聞こえてきたハビエル・バルデムは『マザー!』の異様な旦那役の印象が強く残っていたけど、確かにシガーのキャラクターも魅力的で良かった。ボブカットも珍妙なんだけど、その後ろ姿が可愛いのがじわじわ来る。高圧ボンベ付きのエアガンという得物も独特でいいよね。死神に追われるモスも、今まで見てきたジョシュ・ブローリンの役の中でも一番色気があったと思う。そして私の中で誰よりも印象に残ったのが、エド保安官の無力感に苛まれる姿だった。この映画はモスでもシガーでもなくエドが主人公だったのだと最後になって気づいたけど、傍観者にしかなれない彼が主人公だからこそ、『ノーカントリー』は不思議な魅力を持つ映画になったんだろうなと。モスやシガーが主役だったら「サイコパスが強烈なだけの映画」で終わっていたと思う(でもこちらの方が好みだという観客も多そうではあるよね)。

ノーカントリー』の悲観的な世界は『セブン』に少し似ていて、秩序を守るべき人間が何も出来ずに絶望しているという点でも共通している。エド保安官を見ていたら『セブン』のサマセットを思い出したんですよね。それぞれの作品で世界を支配しているのが「暴力」と「無関心」、舞台も「渇いた荒野」と「雨の絶えない街」とで異なるところもあるのがまた面白いなと。