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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『ゆれる』感想

キャスティングが好みだったので軽い気持ちで見たけど、予想以上に良かった。地元で家業を継ぐ冴えない兄を演じた香川照之と、都会でカメラマンとして成功している弟を演じたオダギリジョーがどちらも名演で素晴らしかった。智恵子には魅力を感じなかったけど、出番が少ないからしゃーないか。それでも物語はたいへん面白く、派手な展開はないのに退屈を感じる場面はなかった。「吊り橋」という分かりやすい舞台を使い、心や関係の揺らぎを繊細に炙り出していたのが良かったです。家族関係ならではの居心地の悪さが美味な傑作でした。

後半は法廷でのシーンが増えるけど、法廷よりもほぼ二人きりになる面会室でのやり取りの方が面白いのもいいな。やはり直接二人で顔を寄せ合って会話している方が本音が漏れ出るし、濃密でいい。窓ガラスで隔たれた狭い空間、というシチュエーションも最高。

ただ、洋平は面倒見が良すぎて謎だった。見終わった今になって、それほど彼にとっての稔は信頼に値する人物だったということを描きたかったのだなと気づいたけども。

結局、稔が智恵子を敢えて手放したのかどうかは最後まで見てもはっきりしない(というかあれだけ離れているのに、そんな細かいところまで猛が判別できるか疑問)。ただ、稔には智恵子を助けたいという気持ちも殺したいという気持ちも、どちらもあったんじゃないか。色んな感情が綯い交ぜになって本人も自覚できない、てのは誰にでもあり得ることだと思う。けど法廷では「分からない」ままでいさせてくれるのは、なかなか難しいのだろうな……。