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『ジョーカー』感想

オープニングで画面いっぱいに表示される「JOKER」のタイトル演出にワクワクさせられたものの、ひたすらアーサーという社会的弱者が翻弄されていく様を描いていてドラマとしての起伏は案外浅いけど、ホアキン・フェニックスの怪演のおかげで苦もなく見ていられた。特にアーサーの笑いのような発作は見るたびに苦い気持ちになれる。マレー役に『キング・オブ・コメディ』で主役を演じたデ・ニーロがキャスティングされているのも粋だよね。ところで事前にかなり暗い話だとは聞いててそれは確かにそうなんだけど、暗い話から得られる爽快感も存在していて、私にとっては『ジョーカー』がまさにそうだった。面白かったです。

薬がもらえなくなり、仕事をクビになり、クラブの舞台では滑り倒し、血の繋がりがなかった母親は精神病を患っていて「ウェイン家の息子」という淡い希望も砕かれ、同じアパートに住むシングルマザーとの関係も妄想でしかなく、敬愛していたマレーはアーサーを笑い物にする。そんなアーサーを見てきたからこそ、ラストでカタルシスに酔い痴れた後は晴れ晴れとした気持ちになった。覚醒したアーサーが踊りながら軽やかに長い階段を降りるところなんてもう最高。

今回の主人公であるアーサーは「頭脳明晰で倫理や道徳を嘲笑い、カオスを求め、奇襲を得意とする」、という私の中のジョーカー像には重ならないけど、そこが逆に面白いなと思った。敢えてそう描かれているのだろうし、それでもアーサーは魅力的な主人公だったので満足した。

幼いブルースが暴徒に両親を殺されて後にバットマンになり、ジョーカーが立ち塞がるのであれば年齢が噛み合わないと思うけど、それもそれとしてバットマンがいればジョーカーが誕生し、ジョーカーがいればバットマンが誕生してしまうという二人の皮肉な運命めいた構図も好き。どちらも「シンボル化」を果たしているところも面白かった(アーサーは否定したけど、最終的に彼は貧困層にとっての英雄にされている)。

ラストが精神病院の中でのやり取りになっているし、主人公が信頼できない語り手であることが提示された以上は「すべてがアーサーの妄想である」と片付けてしまうことも可能ではあるけど、私は概ね事実だったと捉えてます。その方が好みなんだよな単純に。どのように解釈しても「ジョーカーの思うツボ」になりそうなのがずるいなとも思うけど、元々そうした狡さを内包する存在なので納得してしまう。