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『ワンダーウーマン 1984』感想

ワンダーウーマンの戦いをドリームストーンによる狂騒と共に描くスーパーヒーロー・アクション。ハンス・ジマーの音楽は相変わらずアガるし、ガル・ガドットのダイアナは今回も満点と言っていいくらいに素晴らしいし、「前作のアレスのような神よりも人間の方が遥かに厄介で恐ろしい」と実感させてくれる貪欲なマックスの描写も面白く見れたんだけど、今回は不満も多かった。特にストーリーは中盤から風呂敷を雑に広げていくもんだから畳み方まで雑になっており、欲望が招いた大混乱の解決方法もつまらないものでがっかりした。多少は雑でも上手く盛り上げたりアクションで熱くなれたらまだいいんだけど、どちらもなかったのがな……。ただ、マックスやバーバラに注目すると面白く見れたのも確か。少なくとも中盤までは楽しく見れました。

最初に引っかかったのは他人の体を借りて復活したスティーブの存在で、クリス・パインが演じてるけど実際は別人なんだよな。なのにダイアナは抵抗なくキスもセックスもしてしまうから仰天した。まあダイアナとスティーブが納得してるならいいけど、元の体の持ち主が気の毒で浮かれる二人を好意的に見れない。大戦時代から未来に来たスティーブがカルチャーショックを受けてはしゃぐ様が、前作で外の世界に来てはしゃいでいたダイアナそのもので微笑ましくはあるんだけど、これが他人の体でなければな……という不満点がチラついて素直に楽しめなかった。スティーブはダイアナの前に再び現れるけど紛れもなく彼本人だからこそ去っていくし、ダイアナもそれを痛いほど理解しているから二人は別れる、という流れも良かったから本当に惜しい。というか普通に体も含めてちゃんとスティーブが復活する、という形で良かったのでは。

バーバラの扱いも微妙で、特にスーパーパワーを手に入れたバーバラが代償として失ったのは優しい心だった、という流れは心底つまらなかった。ダイアナは「あなたは優しくて明るく思いやりがあった」と言うけど、優しかろうがなんだろうがバーバラはそれまで不遇だったわけで、それを無視したダイアナの言い分は一方的で綺麗事にしか聞こえない。バーバラの最後も中途半端で、そこは「描かなかった」のではなく上手い着地が見つからず「描けなかった」んじゃないかと邪推してしまった。

今回は赤の他人の男の人生をまったく考慮しなかったりバーバラに「願いを取り消して」と言い出すあたりに、ダイアナの無自覚な傲慢さが出ていてなんとも言えない気持ちになったけど、これを「ダイアナの欠点」として描くなら納得も出来る。けど、映画を見る限りではそれも疑わしい。

マックスは面白い存在でした。願いを叶えるのに代償を伴うのであれば、他人の願いを叶えることで見返りをもらえる願望器になろうとするあたりがまさに詐欺師の手口だなと。無限に湧く欲望を貪り食う欲の深さが顔にも出ていて終盤にはやつれてくるんだけど、健康すらも他人から奪おうとしていたのだから彼の強欲ぶりには際限がない。ただ、マックスが石油王に会いに行ってからは物語は一気に失速し、全世界に呼びかけるところまで来るといよいよ退屈になってくる。ドリームストーンは強い欲望に応えるもので、更に直接触れなきゃ効果がないと思っていたから都合良くガバガバになったことに萎えた。ひたすら叫びっぱなしのマックスを見るのも疲れるし、ダイアナの訴えも安直でぜんっぜん面白くねええ!

そしてアクションも、ダイアナが弱体化するのもあって物足りなかった。クライマックスのバーバラ戦は展開の雑さに萎えたのもあるけど、単純にアクション自体に魅力がない。黄金聖闘士みたいなアーマーも装着の必然性がなく、わざわざ自宅に取りに行ったのも格好悪いしそもそも自宅にデーンと置いてあるというのが……。半分は神なんだから、もうちょいダイアナの神性を意識した豪快な演出で良かったんじゃなかろかー。ただ、カイロでのカーチェイスは楽しかった。急ぐ時に主人公が車を奪うシーンのある作品は多いけど、ちゃんと車を買うタイプは初めて見たかもしれない。そこは真面目なダイアナらしくて好き。