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『冷たい熱帯魚』感想

熱帯魚店を営む冴えない中年が猟奇殺人事件に巻き込まれていくスリラー。私はえげつない物語が大好きなのに刺さりそうで刺さらなかったけど、それはそれとしてたいへん面白かった。二時間半もの間、中弛みもなく一気に見れたのは役者の演技に引っ張ってもらえたからで、中でも気の弱い夫である社本役の吹越満、独善の塊である村田役のでんでん、妖艶な愛子役の黒沢あすかの三名は圧巻でした。物語を楽しむというよりは役者の演技を堪能する映画だったなと。

強烈なのはやっぱり「ボディを透明にする」という独特の表現が印象に残る遺体の解体作業なんだけど、村田のキャラクターもあってほぼコントになっているのが面白すぎた。他にも骨や衣服にわざわざ醤油をかけて燃やしたり(なんでさ)、三人で死体をえっほえっほと運ぶ光景も滑稽で笑えるんですよね。終盤、妙子を強姦しながら社本が美津子を殴り倒すシーンも吹き出した。タイミングや社本の叩き方、美津子の倒れ方が絶妙すぎる。なんなんだこの映画!

あと社本に「お前は俺の女だ」と言われた時の愛子の「うん!」が無邪気で可愛かった。恍惚の表情が最高。そして黒沢あすかは官能的だったけど、吹越満も謎の色気があって面白かった。だからラストの社本と愛子の、血に塗れながらの壮絶な攻防は視覚的な意味でも楽しかった。

この映画は社本という男の哀れな姿を描いているけど、社本にとって一番の絶望は娘が初めからああだったところだと思う。彼は村田、愛子、妙子を殺し、更に自分自身をもこの世から消してしまう。でも村田が関わらなくても社本家はとっくに壊れていた。美津子がああいう娘なのは、社本家を掻き回した悪魔のような村田のせいではなく社本のせいなんですよね。だから父の気持ちや覚悟は徹頭徹尾、娘に伝わらなかった。ただ、最後の美津子の暴言を社本は知らないまま死んだので、そういう意味ではまだ救いがあったと言えるのかも。しかしここまで救いがないと逆に気持ちいいんだな物語って。他人に気を遣いながら生きてきた社本の鬱屈した思いが爆発し、家族の本音が一気にぶち撒けられるという爽快感もある。すっきりした。