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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』感想

木村拓哉がお薦めしていたので鑑賞。タイトルの印象から恋愛映画を想像していたら、実は元軍人の偏屈なおっさんと真っ直ぐな男子高校生の奇妙な友情を描いたヒューマンドラマだった。そしてこれがもう素晴らしい。名作。

とにかくフランクのキャラクターが強烈で、女と酒が大好きで普段から口が悪くすぐ大声で威嚇したり「Hoo-ah!」と口にしたりなど横暴なところが目立つんだけど、それらは全て彼の深い孤独と絶望の裏返しだと分かってくるから嫌いになれない。むしろ好きなキャラクターになっていく。そんな主人公を演じたアル・パチーノが圧巻でした。盲目の演技も素晴らしいけど、その上でフランクの孤独と絶望と、それ以上の自己嫌悪が表情や振る舞いから伝わってくるのが本当に切なくてもうね。

そんなフランクに最初は辟易しつつもやがて同情し、敬愛するようになっていくチャーリーを演じたクリス・オドネルの演技も良かったな。目が綺麗なんですよね彼。フランクが盲目で視点が合わないからこそ、真っ直ぐにフランクを見つめるチャーリーの目がいい。だからフランクの自殺を止めるシーンに説得力が生まれるのだと思う。

二人の旅路はどれも良かったけど、印象的だったのはやっぱりフランクがタンゴを踊るシーンで、ここはドナをメインに撮りそうなものなのに敢えてフランクを撮っていたのが良かった。でも時折映されるドナの生き生きとした表情や、二人を嬉しそうに見守るチャーリーの表情もすごくいいんだよな。ここは好きなエピソードでした。

ただ、罪を犯したわけではないチャーリーに校長が退学をチラつかせて脅している、という理不尽がそのままにされていることも引っかかっていて、中盤までは「名作なのは間違いないけど不満もある」という感想だった。しかしそれもチャーリーの高潔さを訴えるフランクの演説で綺麗に解決するのが最高。二人の交流の積み重ねがラストのカタルシスへと繋がっていくという、この真っ当な構成が本当に気持ちいい。あそこで会場がわあっと歓喜に包まれるのも、見ている私の気持ちとシンクロして鳥肌が立った。最後はフランクに新たなロマンスの予感の気配を漂わせて終わるのも、洒落ていてすごく好き。

というわけで二時間半があっという間だった。いい映画だな、と終わった後に素直に思えた。音楽も良かったけど、『ショーシャンクの空に』のトーマス・ニューマンだと知って納得。映像も美しく、特にチャーリーの学校の風景なんかはいちいち絵になっていたほど。