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『プライベート・ライアン』感想

ノルマンディー上陸作戦を舞台に、一人の二等兵を本国に帰還させるべく保護に向かう八人の兵士を描くドラマ。……と書くと「ヒロイックな主人公チームを描いた戦争映画」を想像してしまいかねないけど、ミラー大尉が序盤に「広報チーム活動」と皮肉っていたように実はプロパガンダのために非合理な命令を出すアメリカ政府に従わざるを得ない現場の不条理を痛烈に描く作品だった。今更見たけど見て良かった。こう書いていいのかは分からないけど、たいへん面白かった。スピルバーグ監督の偉大さを改めて実感もした。

冒頭のオマハ・ビーチの地獄は、2021年の今見ても臨場感と緊迫感の暴力のような映像に圧倒される。私はドキュメンタリーのようにグラグラ揺らす映像はかなり苦手でその手の作品は避ける傾向にあるけど、これは編集が良かったのかまったく気にならなかった。むしろ没入させられちゃったもんな。

そうしてあの地獄を辛うじて生き抜いた兵士が、今度は末端の兵士一人を助けるためだけに八人も駆り出される。心底馬鹿らしいと思うのに、それでも戦死者を出しつつ行軍が続くのがなんというか……。現地の家族から娘を保護しようとしたところを狙撃されたカパーゾ二等兵、どこかで見た顔だと思ったらヴィン・ディーゼルで驚いた(ライアン役がマット・デイモンだったことにも驚いた)。ウェイド衛生兵はオマハ・ビーチでの必死の救命活動も凄まじかったし、ジョークを口にしながらドッグタグの中からライアンの名前を探すメンバーを嗜めるところも好き。だから彼の死は辛かった。モルヒネによる死を求めるところも泣ける。この時にミラー大尉が逃したドイツ兵が終盤で出てくるのも皮肉。

無謀な上陸作戦の惨状と対になるかのようなクライマックスのラメル攻防戦も、燃えるというよりはただただ悲痛。撃つごとに神への祈りを捧げるジャクソン二等兵は戦車の砲撃を真っ向から受けてしまう最期が壮絶だったし、ヒトラー・ユーゲントのナイフで静かに刺し殺されるユダヤ人のメリッシュ二等兵はアパム伍長の葛藤も絡んで印象的。そのアパム伍長も捕虜を殺すことは違法だと非難していたのに、ミラー大尉が殺されたところを見てしまった後は撤退しようとしたドイツ兵を躊躇なく射殺してしまうという、その変わり様が苦い。結局、生存できたのはライベン二等兵、アパム伍長、ライアン二等兵だけだと思うと、ライアンの母親に向けた参謀総長の手紙も最後にはためく星条旗も虚しい。