ロログ

ネタバレ映画感想とかいろいろ

『プレステージ』感想

プレステージ (字幕版)

プレステージ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

煌びやかなマジックの世界の裏でマジシャン同士が相手の公演を妨害し合うという地獄のラリーが延々と繰り広げられるんだけど、こういう憎悪が絡む話は大好物なのでそりゃもう美味しかった。

最初はアンジャーの妻の死がきっかけだった(事故死だと思うけど)のにだんだん相手を出し抜くことしか考えられなくなっていくのが、もう一種の歪んだ愛だなと思ってしまう。毎回わざわざ変装なり何なり手の込んだことまでして邪魔しに行くあたりが特に。あとアンジャーは「ボーデンは絶対に自分よりもすごいトリックを編み出している」という考えが前提にあるのが面白い。それだけ彼がボーデンの才能に絶大な信頼を寄せているということでもあり、だからカッターやオリビアの重要な言葉にも気づけなかった。

二人のマジシャンはどちらも強烈なキャラクターだったけど、特に印象に残ったのはボーデンかな僅差で。ボーデンが指を失った時にもう片方も指を切断する思考回路は異常だし、二人がそれぞれ違う女性を愛してしまったことが悲劇への引き鉄になっているところも美味しい。双子であることを利用して生きているのに双子であることを伏せたまま真っ当に暮らしていくのは、どうしても周囲の信頼が失われていくから難しい、ということをオリビアは突き付ける存在だった。双子同士でもっと情報を共有出来ていれば回避できた悲劇はあったかもしれないけども。というか登場する女性はみんなアンジャーと双子がマジシャンだったからこそ翻弄されてしまったわけで、そういうところからも何かにすべてを賭けた人間の厄介さがよく分かる。

アンジャーもテスラの作ったマシンを使って科学的に瞬間移動を成功させるんだけど、実は「自分が死ぬか自分を殺すか」のガチャをしているのがやばい。何せこれはもうマジックですらない。発端はマジックにあったはずなのに、彼はボーデンを出し抜けるならマジックじゃなくても良くなってしまった。更にボーデンを死刑にするためだけに、マジックですらないものをマジックと同じように演出して見せているのがめちゃくちゃで、ここまで来るともう笑ってしまうな。私はカタストロフを好む人間なので、アンジャーのこの滑稽な悲哀ぶりと結末がたまらなかった。冒頭の大量のシルクハットと対になるかのような、大量のアンジャーの水死体で終幕となるのもいい。

二人のこうした破滅的な生き方は、鳥籠ごと消失するあの鳩とオーバーラップする。あのマジックが実は鳩を殺しているのだと知った時は震え上がったけど、二人の生き方を暗示する伏線にもなっているところも美しい。

テスラの作ったマシンは、最初はワープ装置のつもりで作ってたけど技術の限界によりコピー装置になった代物だと解釈した。このマシンはリアリティラインが崩壊するレベルのオーパーツなので、物語の終盤に出してくるのは禁じ手感もあるんだけど、二人のマジシャンの拗れた関係を美味しく眺めていた私にとっては副次的な要素でしかなく、最初こそ呆気に取られたもののすぐに受け入れた。ただ、ボーデンとテスラの関係は最後までよく分からなかったな。どこかで見落としたのかもしれんけど。

不満点はボーデンが逮捕されることに無理がありすぎるところで、というかカーターは双子のことを知っていたのに何故あんないい加減な証言をしたのか謎。あとアンジャーとボーデンの歪んだ関係は良かったんだけど、ステージ以外での直接的な対決ももっと見たかった。まあこれは贅沢の域になるけども。

長文で吐き出してしまったけど、それくらいにブッ刺さった作品でした。とにかくヒュー・ジャックマンクリスチャン・ベイルの二人の役者が素晴らしい。特に舞台の下に落ちたアンジャーが大喝采を受けて一礼するシーンが好き。