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『万引き家族』感想

すごかった。扱っている内容も重いけど、すさまじさも相当でずしんと来た。物語も役者も空気も絶品で、紛れもなく大傑作だと思う。万引きを繰り返しながら暮らす家族の歪で穏やかで刹那的な日常を、淡々とかつ生々しく描き続ける様が残酷だった。是枝監督はそうした一家を、同情的な視点でも断罪的な視点でも撮ってはいないから尚更そう感じてしまう。

最初は樹木希林の演じるばあちゃんの喋り方や動作があんまりにもリアルで、思わず「うわあ」って声出た。パチンコで隣のおっさんのパチンコ玉を豪快に盗むシーンの、がめついばあちゃんぶりとか強烈で面白すぎる。海水浴ではしゃぐ五人を眩しそうに見た時の表情と、声に出さずに口にした最後の礼の言葉も印象的で、樹木希林ってすごい人なんだなということを久しぶりに実感した。

もう一人すごかったのが信代役の安藤サクラで、この人のことはあまり知らなかったのだけど今作で知れてよかった。普段の何気ない言い回しや表情もいいし、家族崩壊後に刑事に「子ども二人は、あなたのこと何て呼んでました?」と聞かれた時に涙を髪に撫で付けるように拭いながら、それでも泣き続けるシーンがもうめちゃくちゃいいんだよね。今年見た中では一番忘れられない演技だったし、今後もたびたび思い出すのだろうな。終盤に罪を一人で被った信代が、祥太を拾った時の車の情報を伝えるシーンの表情も絶妙で泣けた。そんなことを信代がわざわざ覚えていたのは、きっと祥太に伝えなければならない時が来ると分かっていたからだろうから。

三人目がその祥太を演じた城桧吏で、祖母はいなかったことにしろと治に言われた時の戸惑い、駄菓子屋の店主に今まで見逃されていたことを知った時の罪悪感、りんが万引きを再び犯そうとした時の追い詰められた空気と、ついには家族の解体へと至ってしまう祥太の燻っていた気持ちが形成されていく様がよく伝わってきて、おかげで物語に没入出来たのだと思う。ばあちゃんが死んでからも年金の不正受給を続ける信代や、ばあちゃんのへそくりを見つけて喜ぶ卑しい治と信代を見る時の目も良かったし、「お店に置いてある物はまだ誰の物でもない」と教えたはずの治が、その言い訳の通じない車上荒らしにも手を出したことで自分が車上荒らしの際に拾われたのだと気づいてしまう時の表情も自然で、だからこそ痛々しかった。あと倫理観てのは親にはっきりそうと教えられなくても、この社会の中で生きていれば自然に理解していくのだなと祥太を見ていて実感した。色んな意味でも重要な立ち位置で、それは幼い少年が背負うには重すぎるのだけど、そこも含めて魅力的でいいキャラクターでした。

結局、あの家族には金も覚悟もないから愛情だけではなく打算もあるんだけど、愛情がないわけではないんだよな弱くて真っ当ではないだけで。軒先で音だけの花火大会をみんなで堪能する場面もぐっと来るし、信代の言う「絆」だってある。でも「真っ当ではない」ことは社会の前ではあまりに脆い。それが刑事に尋問される時の信代の悲痛さと、血の繋がった本来の家族の元に帰された後のじゅりの地獄ぶりに表れていて、軽率に正論で人を殴ってしまった後のようなやり切れない感情が残ってしまった。その苦さがまた美味でもあるんだけども。