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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『ラブレス』感想

愛せない息子を互いに押し付けようとする離婚協議中の夫婦が、息子が失踪したことで捜索しようとするドラマ。まず印象に残るのは独特の間を切り取る長回しの演出で、特に寒々しいロシアの風景の美しさが際立っていたように思います。同じくらいに寒々しいのがスマホ中毒なジェーニャを始めとした人々の姿で、私自身がスマホに夢中な自覚があるだけにちょっとゾッとした。責任転嫁ばかりして自分が一番の不幸だと信じている身勝手な夫婦のやり取りも胸糞なんだけど、不思議と最後まで目が離せない映画でした。良作。

子供が可哀想な目に遭う作品はやはりしんどい。アレクセイは出番は少ないけど、親権を押し付け合う両親の会話を聞いていた時の悲痛の表情には抉られた。ジェーニャがトイレに行って部屋に戻ろうとドアを閉めたらドアの裏にアレクセイが一人で突っ立って泣いてるんですよね。強烈でした。長回しで撮られるそれぞれのセックスシーンも、この間にアレクセイがどんな気持ちで消えたのかと考えるともうね……。ボリスが勤務する会社やジェーニャの母親も最悪で、警察やアレクセイの担任だって我関せずで冷たい。しかしこうした無関心な人々は、見ている私だって無関係ではいられない。それでもそんな中、他人の子供を懸命に探してくれるボランティアの捜査隊の姿に救われた。

終盤のあの無惨な遺体は本当にアレクセイではなかったのか。夫婦の性質を考えたらどちらとも取れるけど、私はアレクセイだったのだろうと考えちゃうな。二人とも息子ではないと否定したけど、ああいう醜悪な面が出る時だけ「夫婦」の息が合うのが皮肉。ただ、アレクセイであってもなくても夫婦にとっては地獄で、現にラストは晴れてそれぞれが新しいパートナーと一緒になったはずなのに二人の目は空虚なまま。自分自身とアレクセイに向き合わない限り、この二人が幸せになるのは難しいのだろうな。