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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『フレンチアルプスで起きたこと』感想

宇多田ヒカルがおすすめ映画の一つに挙げていたので視聴。ピンチの時に家族をほっぽり出して我先にと一人で逃げ出した夫を中心に家族の不協和音がみっしり詰まっていて、逆に笑ってしまった。それも周囲の人間にまで伝染していくのが滑稽で、見事なコメディ映画になっていたと思います。そうした気まずい光景を、定点カメラの長回しで執拗に見つめる独特の演出や音の使い方も良かった。

私としてはトマスが雪崩から逃げるのは仕方ないけど、その後も見栄を張って逃げてないとか言い出すのは格好悪いなと思った。そもそも逃げてから戻った時に、みんなにすぐ謝罪していれば済むことだったとは思うけども。一方でエバもやり方が陰湿なんだけど、彼女のイライラする気持ちも理解できる。正直この夫婦はどっちもどっちだと思うけど、どちらも「まあ分からなくはない」と思わせられたのが上手い流れでした。これは男がどうたら女がどうたらという話でもないと思うし、私だって同じ状況になれば逃げるかもしれないし見苦しく言い訳するかもしれないし、逆にネチネチ相手を責め立てたりするのかもしれない。しかし夫婦の問題に付き合わされた友人カップルは気の毒な……。夫婦の重要なシーンにいつも居合わせるホテルのスタッフもじわじわ来る。ちなみに終盤、雪山ではぐれたエバをトマスが救出に向かうところは、夫婦が「家族」を守るために一芝居打ったんだろうなと解釈した。

ラストの帰りのバスでは今度はエバが最初に降りてしまうのだけど、真っ先に逃げ出したようにも見えるし乗客のみんなを導かんと率先して降りたようにも見えるのが面白い(バスに一人残るのがエバが批判した女だというのも含めて)。トマスがしつこくレストランでの出来事について「見方の違い」だと弁明していたけど、ここでああなるほどなと思ったのでした。