ロログ

ネタバレ映画感想とかいろいろ

『嫌われ松子の一生』感想

男に縋ってしまう依存体質の女の愚かで直向きな一生を、明るく派手に描くミュージカル・ドラマ。といっても主役であるはずの松子は開始時点で殺されており、代わりに甥の笙が狂言回しとなって叔母の劇的な転落人生を辿っていく形になっていたのが面白かった。ただ、極彩色のカラフルな画面が重い。松子の人生も重く、それをハイテンションに見せてくるから作品そのものが重い。だから見ていると疲れてくる。そうして何もかもが重い要素で構築された映画なのに、サラッと見れてしまった。精神的には疲れているはずなのに気持ちは軽いというか、とにかくレアな映画体験をさせられてしまったよーな。泣きもしないし凹みもしないし苛立ちもしないし笑いもせず、ひたすら松子の壮絶な人生を見続けた二時間だったけど、なんだかんだで好きなんだろなこの映画が。

父親との対話が叶わず、妹との対話も拒絶してきた松子は基本的に対話をすっ飛ばして愛情を求めるので、恋愛もできないまま次々とロクでもない男に依存していく。松子の不幸は自業自得でもあるのだけど、誰も余裕がないから指摘できない。更に彼女は相手の男を全肯定するから、龍に至っては都合良く松子に神を見てしまう。だからこの二人は最後まですれ違ったままなんだけど、松子と龍の歪な関係は結構刺さった。特に刑務所から出てきた龍が、待ち続けていた松子に怯えて逃げるように去っていくシーンが印象的。かつて実家に寄った松子が以前殺しそうになった妹に大喜びで抱きつかれて怯え、逃げたシーンがオーバーラップしたんですよね。これが妹との最後の時間になったけど、龍も松子から逃げた時が最後になってしまったんだな……。

そんな松子も死ぬ直前にようやく妹との対話を空想するんだけど、結局行きずりの子供たちに撲殺されてしまうからとことん救いがない。最後に松子の見た世界があまりに幸福だったので、悲壮感はあんまりないのだけども。

ちなみにキャストは隅から隅まで豪華でみんな個性的だったけど、主演の中谷美紀は言うまでもなく、柄本明黒沢あすかの演技もすごく良かった。