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『キングスマン』感想

気持ちよく「面白かった!」とは言えない作品だった。大好きなスパイアクションだし、私得なキャスティングだし、表向きは仕立屋職人である英国紳士が裏では一流のスパイとして戦うという設定が格好良いし、傘や時計といったガジェットにもわくわくしたし、円卓の騎士から引用しているコードネームは厨二感満載だし、教育係マーリンのキャラクターも良かったし、と好みの要素はいくつも取り揃えてあるのに肝心なところをことごとく外してくるのは何なんだ。面白かったけど、もっと面白くすることは出来たと思うから不完全燃焼感が強い。

ブラックな要素も割と好きな方だと思ってたんだけど、これも作り手のセンスと匙加減によって変わるのだなということを学習した。「威風堂々」を流しながら上流階級の人間の頭がポポポポポンと爆発していくところは笑ったけど、スウェーデンの王女とのアナルセックスなんかは「面白いと思ってやってんのかな……」と冷めた目で眺める自分がいた。ノリノリで王女に応じるエグジーのキャラクターがよく分からん。

そもそも前半と後半でエグジーが変わりすぎててピンと来なかった。チンピラからエグジーが逃げるシーンは良かったんだけど、あそこからハリー並みの戦闘能力を持つようになる、てのが結びつかない。訓練を兼ねた新たなキングスマン選考試験も、ロキシーのキャラクターは薄いし犬を殺させることで覚悟を問う試験も釈然としないしで面白くない。「マナーが人間を作る」という台詞が重要そうなのに、マナーを教えるシーンがほとんどないからハリーとエグジーの師弟関係にもエグジーの成長にも階級格差への問題提起にも上手く生かされてないよーな。

あと私はずっとハリーが主人公だと思っていたから、エグジーが主役だったことに驚いた。ただ、エグジーは悪くはないんだけど主役を張るにはちょっと物足りない。というかハリーが魅力的すぎた。そもそもハリーの唐突な退場は教会での長回しの虐殺に燃えた直後ということもあり、テンションを無情にも断ち切られた感があって衝撃より困惑が大きかったんだけども。意地悪な展開は好みなんだけど、これは意地が悪いというよりあんまり上手くないなと感じちゃったな。「師匠の死」は王道展開だしハリーを殺すのはいいんだけど、いきなり殺されたのとエグジーとハリーの関係の描写が薄いので上手く没入出来なかった。更にハリーの死は「死んだ」と伝えられただけだったから、終盤の美味しいところで登場するんだと思ってたけどそれもない。この外し方は意図的なものなのかなと思うけど、少なくても私の好みではなかった。

ヴィランであるはずのヴァレンタインも、中の人は濃いのにキャラクターが浅い。義足で戦うガゼルの方が目立ってたけど、終盤のエグジーとガゼルの戦いはあんまり燃えなかった。そしてヴァレンタインが浅いキャラだったから、ヴァレンタインの思想に染められたアーサーも浅く見えてしまったのが残念。マイケル・ケインが好きで期待していたから尚更。更にこれで一気にキングスマンがしょぼく見えてしまったのがな……。独立した諜報機関という設定にはわくわくしてたんだけども。

良かったのはハリーのキャラクターで、それはコリン・ファースの力によるところも大きかったと思う。ハリーのキャラクターが良くも悪くも作品に多大な影響を与えているけど、それはそれとしてハリーはパーフェクトといっていい。予告でも見たバーでハリーがチンピラを大人気なく倒すシーンと、ハリーが教会でキリスト教原理主義者を次々と殺戮するシーンは最高。特に後者は長回しで撮られているのが特徴で、計算し尽くされた動きと構成に惚れ惚れした。殺し方殺され方のバリエーションが豊かなのもいい。コリン・ファースがこんなバリバリのアクションをこなすとも思わなかったから尚更印象に残る。あーあとエグジーママによる『シャイニング』パロも好き。

もう「騎士道精神に則ったハリーを主人公に据えつつブラックな要素も取り入れたスパイアクション」で良かった気がする。エグジーは二作目に登場させたらいいし、それなら基本的な説明を割愛してその分描けることも増えたと思うのだけども。

振り返ってみたら不満だらけの感想になってて笑った。あんまりにももどかしくて爆発してしまったらしい。『キングスマン』のバカバカしいノリに素直に酔えたら良かったんだけど、「おもてたんと違う!」のはいいとしてもそこで出されたものがあまりにも……。とりあえず『大逆転』と『ニキータ』と『プリティ・ウーマン』と『マイ・フェア・レディ』はそのうち見ようかなとは。あとマクドナルドに行きたくなったからダブチー食べに行くか。