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『聖なる鹿殺し / キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』感想

開幕が脈打つ開胸心臓のドアップで思わず「うわあ」。そんな感じで「細かいことはいいからとにかくこの地獄を見てくれ!」って監督の声がずっと聞こえるような、最初から最後まで気持ち悪い映画だった。そして細かい理屈は分からないんだけど、分からなくても面白いのが困りました。

ようは医療ミスでマーティンの父親を死なせてしまったスティーブンが「家族を一人殺すか、家族全員が死ぬか」という不条理極まりない選択を求められる話なんだけど、これに限らずこの映画ではとにかく「公平」であることを求められる。スティーブンがボブに秘密暴露大会を一方的に始めるという反吐が出るようなシーンも、アナがマシューに手淫を施して夫の過失の真相を知るシーンも、生き残るために小さな息子ですら生殺与奪の権を持つスティーブンに媚を売る展開も全部見返りを求めての行動で、つまり「そうでなければ公平ではないから」という歪んだ理屈があちこちに漂っている。公平であることが重要になる場面は現実にもいくらだってあるけど、この映画はちょーっと執拗すぎる。それは潔癖を通り越して異常ですらあり、だから気持ちが悪い。爆音で鳴り響くオーケストラ音楽も「等価交換!」「等価交換!」とわんわん叫んでいるような耳障りなもので、聞かされるたびに「うへー」ってなったもんな。マーティンがキムを抱かなかったのは本当に抱く気がなかったのか、それとも等価交換のルールを知っていたからなのか。

最後は滑稽で残酷なロシアンルーレットに頼ることになったけど、スティーブンなら実はうっすら見えていてなかなか殺せない地獄に耐えられず……みたいな状況もありそう。どちらにしろ彼は「運」を理由にしたままでいるのだと思います。アナやキムも同様に。

しかし不気味で気持ち悪く鬱陶しいマーティンを演じたバリー・コーガンの存在感は本当にすごかった。圧巻でした。