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『透明人間』感想

透明人間 (字幕版)

透明人間 (字幕版)

  • 発売日: 2020/12/09
  • メディア: Prime Video

透明人間になれる彼氏の支配から逃れようと足掻くセシリアを主人公に据えたサスペンス・スリラーで、空間や余白の使い方、長回しでじわじわと追い詰められていく空気、更には精神が疲弊していくエリザベス・モスの表情演技がもう満点。ホラー映画向きだなこの人。あと「透明人間になれる」という要素はあくまでも手段でしかなく、金持ちで社会的地位も有していて表向きは死んだことになっている男からの支配の恐怖の描写こそが本質で、そこもまた面白かった。

前半から中盤は、誰にも信じてもらえず孤立していくセシリアが痛々しい。透明人間のやり方がかなり陰湿なんだよな。そこも面白かったんだけども。後半はステルススーツが露わになって多くの人に目撃され、やはり透明人間への恐怖感は薄れてしまうんだけど、同時に話が一気に動き出すから目が離せなくなった。

エイドリアンとトムの関係が、それぞれそのままセシリアとジェームズにシフトしてしまったかのようなエンディングにはやられた。実はエイドリアンが本当にトムの言いなりだった可能性も残されているけど、セシリアにとって真実は重要ではないんだろうな。セシリアも言っていたように、彼が生きている限り彼女に安息はない。例え逮捕されても彼なら抜け出してまたやって来るかもしれない、という不安に付き纏われる。エイドリアンは死も偽装出来るしすごいスーツも作れるような「強敵」で、だからセシリアは最初にエイドリアンの自殺を聞かされた時もまったく信じていなかった。それくらい根深い疑心暗鬼に囚われているから、セシリアが解放されるには「彼女自身の手で確実にエイドリアンを殺す」しかなかったのだろうなと。ラストでエイドリアン邸から外に出て表情を和らげるセシリアが印象的でした。

ただ、お腹に彼の子は宿ったままなので、ここから違う地獄が待っている気がしなくもない。歪な状況で出来てしまった親子関係が果たして真っ当でいられるのかどうか……。ジェームズとの関係も歪んでしまったのが、序盤の楽しそうなシドニーを交えた三人のやり取りを思い返すと遣る瀬無くなった。