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『グリーンブック』感想

高潔な黒人天才ピアニストと彼に雇われた粗野なイタリア系運転手兼用心棒が、キャデラックに乗ってアメリカ深南部まで演奏旅行に向かうロードムービー。当然あちこちで冷遇されるんだけど、お説教映画にはなってないのがいいな。むしろ生まれも人種も性格も考え方もまるで違う二人の間に友情が芽生えていく様を楽しむバディムービーとしての側面が強く、二人の掛け合いにもユーモアがあって楽しい。ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリの演技もいい。特にマハーシャラ・アリは低い声も最高だし、実際に彼自身がピアノを弾くシーンが多いのもすごい。気楽にサラッと見れる良作でした。

最大の魅力は二人のキャラクターにあり、トニーは粗野だし教養もないし最初は黒人への差別意識を持っているけど、言われた仕事は手を抜かずきちんとやるし奥さんへの手紙も欠かさないしで律儀なんですよね。健啖家なところもいいし、豪快で下品な食べ方も好き。あとイタリア系だからか、彼も実はドクほどではないにしろナチュラルに見下されていたりもする。

一方で洗練された佇まいからも育ちの良さが伺えるドクは、白人の運転する車の後部座席に乗れるほどの "成功した人" だからステレオタイプな黒人にはなれず、かといって白人からも疎まれる孤独な天才で、才能はあってもそのピアノの音色は教養ぶりたい白人たちのつまらない欲求を満たす道具でしかないというのがまた切ない。だからこそ純粋にドクの演奏に聞き入っていたトニーの存在が大きいわけで、そんな二人のやり取りが楽しくないはずがないんだよな。

一番印象に残ったのがフライドチキンを二人で食べるエピソードで、ケンタッキーの看板に興奮するトニーがまず可愛かったし、トニーを真似てフライドチキンの骨をドクが車の窓から投げ捨てた後、更にカップをトニーが投げ捨てたらわざわざ車をバックさせて拾わせるのはすんげえ笑った。

他にももっと儲かる仕事を紹介してやると言われているトニーをドクが遠回しに引き留めようとするところとか、トニーの書く奥さんへの稚拙な手紙に呆れてドクがロマンティックな文面を考えてやるところとか(これもちゃんとオチがつくのがいい)、疲れ果てたトニーをクリスマスまでに家族の元へと帰らせようとドクが運転していたところとか、一度は断ったくせに賑やかなトニーの家のクリスマスパーティに結局ドクがやって来るところとか、とにかく二人が愛おしくなる要素満載だった。優しく気持ちのいいエンディングも最高。一部で批判が出ていたらしいというのは聞いたけど、素直にいい映画だと思うな私は。