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『ゴッドファーザー PART III』感想

ゴッドファーザー』を「家族愛の物語」と評するのは聞こえはいいけど残酷だなと思ってしまうんだけど、「家族愛の物語」であることもまた事実なのが何とも言えない苦さがあってとても好き。

一作目の感想で私はこう書いたんだけど、最後まで皮肉な形の家族愛を描くことを徹底していてたいへん面白かった。海の中でしか生きられない才能のある男が、家族を守るために陸で生きていくしかなくなって破滅していくような、そんな皮肉に満ちた物語を私は愛してしまうんだよねどうしようもなく。トムの不在は残念だったけど、それが気にならなくなるくらいにマイケル・コルレオーネという孤独な男の物語に没頭した。

前回印象に残ったのはフレドだったけど、今回はコニーがよく動くのが面白かった。フレドの死を機に離れていくのだろうと思っていた彼女がマイケルのそばにいるのは意外だったけど、コニーもマイケル同様かなり変わってしまっていた。フレド暗殺の時、アンソニーをフレドの元から呼び戻したのはコニーだったわけで、彼女も兄殺しに間接的に関わってしまったという負い目もあったのかもしれない。ザザの暗殺を甥に命じたのも驚いた。でもアルトベロに彼女が引導を渡す頃には驚かなくなっていて、それもなんだか切なかった。

ヴィンセントも面白いキャラクターだったけど、気性が荒くコルレオーネ家を揺るがすような事件を起こすところもソニーそっくりでもう。序盤のパーティで家族写真を撮る時に、私生児である彼をマイケルが呼ぶシーンが微笑ましくてよかった。ここで若いアンディ・ガルシアが登場するとは思わなかったので驚いたけど、立派に生えた胸毛にも圧倒された。

壮年のマイケルも変わったけど、毒気を抜かれたというよりは毒を纏い過ぎて衰弱したような印象があり、好きなキャラクターだけに見ていて胸を塞がれるような思いだった。痛々しい。印象的なのは中盤のランベルト枢機卿に懺悔するシーンで、「私の罪は神の救いよりも大きい」という重い台詞や悲嘆するアル・パチーノの演技にぐっと来たし、教会の外観を上手く使った画の切り取り方も美しい。名シーンでした。その後、ケイにシチリア島を案内するシーンはマイケルが穏やかな表情だったし二人とも楽しそうでホッとした(何気にケイがアポロニアとのことを知っていたことにも安堵した)。が、再び二人の距離が僅かに近づいたかのように見えた瞬間、結局トマシーノの死からケイがまた失望してしまうのが、まーじーで意地の悪いシナリオだなこれ! 鬼か。更にメアリーも死んでしまうからマイケルとの間に出来た溝はもう永遠に塞がらない。辛いな。

重厚なオペラのような『ゴッドファーザー』シリーズ最終章のクライマックスが、オペラの開幕から始まるのも熱い。アンソニーの晴れの舞台の裏で粛々と行われる血を血で洗う粛正は一作目を思い出すようで、コルレオーネ家でマイケルがあれだけ抵抗してでも合法化に向けて舵を切ろうとしたのに、それでも歴史は繰り返すのだという皮肉が効いていた。しかし罪を重ねることに疲れ果て、三代目を襲名するにはまだ不安要素の多い甥に思わずドンの席ごと「粛正」を委ねてしまったマイケルと、マイケルと同じ業を背負うヴィンセントを神は許しはしなかった。メアリーの死は予想出来たけど、それでも劇場の階段で崩れ落ちるメアリー、泣き喚くケイ、慟哭するマイケルのシーンは圧巻で見入る。螺旋階段からギルディ大司教の遺体が落とされるシーンもいい。粛正シーンは三作全部それぞれ違う意味が込められてて良かったな。あと何気にアル・ネリも美味しいキャラクターだった。台詞はそんなに多くはないけど、確か一作目から出てたんだっけか。後で見返したいな。

ヴィトーの最期との対比になるかのようなマイケルの孤独な死は、一作目を見た時からずっとそうなるのだろうなと思っていたけど、優しい陽射しに照らされて死んだマイケルの光景が思っていた以上に遣る瀬無くて、ひたすら泣けた。家族を守るために修羅になり、修羅になったばかりに家族を失ってしまった皮肉が哀しく、あまりにも儚い。けど、それ以上に満足した。三作目はあんまり評判が良くないとは薄っすら聞いてたけど、すんげえ楽しんだ。コロナワクチンの副反応による熱にうなされながら見たしめちゃくちゃ長かったけど、そうして頑張って見ただけの価値はあった。名作。お疲れ様でした、マイケル。