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『ゴッドファーザー』感想

ゴッド・ファーザー (字幕版)

ゴッド・ファーザー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

『セント・オブ・ウーマン』が良かったからアル・パチーノ出演作から名作と名高いこれをチョイスしたものの、難しそうに見えてあまり期待はしてなかったのに一気に最後まで見てしまった。 三時間もあるけど無駄なシーンはないし、ストーリーが分かりやすいのもあってあっという間だった。見る前はてっきりマフィアの抗争を描いているのだろうと思ってたんだけど、マフィアの家族関係に焦点を当てた作品だった。

驚いたのは序盤の結婚式のシーンを延々見せられるところで、あれが長いのはキャラクターの紹介を兼ねているからなんだな。それだけ人数が多いということでもあり、おかげでキャラクターは何とか把握できた(それでもしばらくはソニーとカルロがごっちゃになった)。

特にマイケルの悲哀は印象的だった。彼はヴィトーの言うように表で生きたかった人で、だからマフィアの世界に身を置くということは夢の挫折を意味する。更に皮肉なことに、ドンとしての才能をファミリーの誰よりもマイケルが有していた。ケイと同じ価値観を持っていたはずなのに、コルレオーネ家の血を引いていることがそのままでいさせてはくれない。そのことでマイケル本人以上にヴィトーが嘆くのが胸に来る。

終盤の洗礼式はただただ素晴らしかった。産まれてきた子を祝福しながら一斉に邪魔者を殺し、悪魔を否定しながら悪魔のような所業を行うマイケルの覚悟が凄まじい。ターニングポイントとなったのは病院で命を狙われている父を守ろうと決意した時だと思うけど、洗礼式で彼は完全に夢と決別してしまった。そしてこの思い切った粛正はヴィトーにもソニーにもなし得なかった容赦のない作戦で、ドンとしての風格も文句のつけようがないのだけど、家族や人との繋がりを重視してきたヴィトーとは違ってマイケルは孤独になる未来しか見えない。嘘をつくしかなかったケイとのやり取りや二人の決定的な溝を表現するかのようなドアが閉まる終幕の演出も、マイケルのこれからの地獄を感じさせる余韻に満ちていて美味でした。

しかしケイを置いて雲隠れしたシチリアで一目惚れしたアポロニアと結婚したかと思えば、アポロニアがあっさりと爆死したのはすんげえ驚いたし、なのにアメリカに戻ってきたら今度はしれっとケイに求婚するから吹いた。ケイがアポロニアとのことを知っているのかどうかは謎だけど、何も伝えてないのだとしたら下衆としか言いようがなく、また伝えなくてもストーリー的には問題無さそうなのが何とも言えず、怒りや呆れを通り越して笑ってしまった。いやまあ普通に考えたらさすがに伝えているとは思うけども(というか隠し切れるとも思えない)。

他にも相談役のトムは有能でいいキャラだったし(というかファミリーで有能な人間が、堅気でいることを望んだマイケルと養子のトムしかいないってのが……)、クレメンザも料理が得意だけど殺し屋としても優秀というギャップが良かった。ソニーは沸点が低く軽率で今回の事態を招いた一因にもなったけど、家族を愛するお兄ちゃんではあったし、カルロも出番は少ないものの重要なキャラクターで面白い存在だった。

不満は特にないんだけど、敢えて言うなら冒頭に出てきた愛らしい猫の登場がそれっきりだったことくらいかな。これだけの長尺で欠点がすぐに思い浮かばない作品も珍しい。「愛のテーマ」を始め、ニーノ・ロータによる音楽も素晴らしかった。

ゴッドファーザー』は一人の真っ当な青年が、皮肉にも「自分の才能」と「家族」によって夢を潰されていく作品だったと認識している。強引なところはあるものの家族を愛していたソニーが、そうした性格を利用されてあんな最期を迎えてしまうところからも明確で、家族であることの皮肉をこれでもかとばかりに描く。だから『ゴッドファーザー』を「家族愛の物語」と評するのは聞こえはいいけど残酷だなと思ってしまうんだけど、「家族愛の物語」であることもまた事実なのが何とも言えない苦さがあってとても好き。名作と謳われるのも納得の出来で、マーロン・ブランドアル・パチーノロバート・デュヴァルの渋い演技や格好良さも堪能出来て満足度は恐ろしく高い。名作。