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『ダンケルク』感想

第二次世界大戦下のダンケルクでの撤退戦を描くサスペンス・ドラマ。説明や台詞の少ない群像劇だけど、ゲイリー・オールドマン主演の『ウィンストン・チャーチル』を見ていたおかげで私にしては珍しくすぐに把握できた。確かダンケルクに留まっている無数の兵を救出するためだけに、カレーにいた数千の部隊が囮となって犠牲になってるんですよね。ここでも序盤にカレーの地名が一瞬だけ出てちょっとぐわっと来た。ストーリーは撤退戦を成功させるだけなんだけどこれがたいへん面白く、でもそれ以上に臨場感が凄まじかった。というかこれ劇場で見ないと駄目なやつじゃねーか! あとノーラン監督作にしてはランタイムが短く、時間の見せ方も複雑なものはないので本当にシンプルで見やすい。防波堤での一週間と、海での一日と、空での一時間を同時に描いているけど視聴する分には気にしなくていいし、この三つの視点の物語が最終的には同じ時間のダンケルクという場所で交差し、そしてまた離れていく構成がいい。傑作でした。あと色んな青が映える映像群がとにかく美しい。

若き英国兵トミー視点では、浜から逃げようとして失敗してまた逃げようとする様を繰り返し、独軍の姿はほぼ出てこないのに魚雷やら空爆やらで地獄を何度も味わう羽目になる。ちなみにここではボルトン中佐が最後まで兵士を案じる高潔な将校として描かれており、海軍の軍服姿も相俟って格好良かった。一方で実は仏国兵だったギブソンと英国兵のアレックスの見分けがつかない時が多くちょっと混乱しちゃったな。なんならトミーとギブソンとアレックスがごっちゃになっていた時すらある。ただ、見分けがつかなくても台詞が僅かでもあれば概ね把握できるし、彼らのドラマも濃密で見応えがあった。

戦闘機に詳しい船長ドーソン視点も面白く、特に最初に救助したキリアン・マーフィの演じた英国兵がもたらす厄介な騒動にはハラハラさせられた。ジョージの死が重い。ピーターは彼を思いやってジョージの死を伏せたけど、英国兵も後に新聞紙で知ってしまう可能性が高いことを思うと、尚更胸が塞がれるような気持ちになるエピソードでした。しかし『聖なる鹿殺し』の演技が強烈だったバリー・コーガンが出てきた時は驚いたな。好きな役者なので嬉しい。

スピットファイアを駆って救出戦をサポートする空軍兵ファリア視点でも、限られた燃料でドッグファイトを繰り広げるから緊張が絶えない。それでもダンケルクから撤退しようとする兵を襲うメッサーシュミットを迎撃し、そのままゆるやかに滑空していくスピットファイアの姿は見惚れるくらいに美しかった。燃える愛機を見つめながら覚悟を決めるファリアの背中もいい。トムハはこういうキャラクターがハマるなと。ドーソンの船から、ファリアの駆るスピットファイアを見守っていたコリンズもいいキャラクターでした。