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『籠の中の乙女』感想

籠の中の乙女(字幕版)

籠の中の乙女(字幕版)

  • メディア: Prime Video

薄気味の悪い映画だった。宇多田ヒカルヨルゴス・ランティモス監督作品を好きだと知り、『シャイニング』の双子を思わせるキービジュアルに惹かれて『籠の中の乙女』をチョイスしたんだけど、見ている間は底の方でずっと不快感が充満しているような感覚があった。妄執に取り憑かれた両親によって社会から隔離され、まるで犬を躾けるかのような教育を受けて育った純粋培養な子供たち(といっても全員は成人しているように見える)を見ていると、おぞましさと笑いは紙一重なのだなということを実感してしまう。でもそこが面白くて、最後まで一気に見てしまった。私がいわゆる「箱庭世界」を舞台にした作品を好きだというのもあるけども。性器を映すシーンが多く、雑なぼかしが入りまくるのもシュールだった。

父親によって徹底的に管理されてきた白い世界が、クリスティーナという異物が混入したことで徐々に壊れていく様を見ていると、人間はやはり好奇心には逆らえないんだなと痛感する。映画から余計な知識を得てしまった長女の頭をビデオテープで殴り、更にはクリスティーナをビデオデッキで殴る父親にドン引きですよもう。

両親の結婚記念日を祝うために姉妹がダンスを披露するシーンは、それまでほぼBGMがない(何しろエンドロールも無音だった)だけに軽やかな音楽も含めてインパクトがあるし、長女によるケーキのドカ食いも味わい深い。ここはすごく好きなシーンだった。その後に長女が行方不明になった時も、家族が律儀に犬になり切ってるのがちっとも笑えないのに笑ってしまう。でもあれこそが納得のいく結末だと思っていて、長女にとって車の中は安全圏である自宅の延長線上にあるものでしかないから、トランクから出る必要がない。そういう風に刷り込まれてきたから、あんなに痛い思いをしてまで犬歯を抜いたのに彼女はいつまで経っても外に出ていけない。そのやり切れなさがとても好き。そして私にはこの家族が異様に見えるけど、そういう私も結局はルールに縛られて生きている人間でしかなく、一家との違いなんてそれこそルールの内容だけなんだよな、と思うとちょっとゾッとする。この感覚が監督の魅力の一端なのだろうなと。

それにしても『籠の中の乙女』にしろ『ノクターナル・アニマルズ』にしろ『母なる証明』にしろ、ダンスシーンが異様な作品てのはどうしても印象に残っちゃうな強烈に。