『ダークナイト ライジング』感想

ダークナイト ライジング (字幕版)

開幕で平和になったゴッサムを見せられた時は、かなり不安になった。ゴッサムの腐敗はもっと根が深いもので、だからこそバットマンやジョーカーのような人間が誕生したんだと思っていたから、チョロい街に思えて落胆してしまったんですよね。デント法の詳細が分からないせいもあるけど、バットマンの献身と、ゴードンの頑張りと、デントの意志だけで平和になるとも思えなかった。これが響いたのもあって、前半はなかなか話に乗れなかった。

が、上辺だけの平和から幻想を壊していく流れになると徐々に盛り上がって来た。ブルースはレイチェルが自分を選ばなかったことを知り、ゴッサム市民はデントの正体を知り、そこから真の平和へと至っていく流れはものすごく健全で真っ当だった。その象徴として、白昼の雪が積もった真っ白な街で戦うバットマンの姿と、カフェでブルースがアルフレッドと再会を果たすラストシーンが用意されているのがいいな。相手がセリーヌってのはピンと来ないけど、共に過去から抜け出したかった者同士だしこれで良かったのかもしれない。クリーン・スレートをブルースが持っていたのは笑ったけど。本当になんでも持ってんなこの主人公。前回では泥を被ったバットマンも正当な評価を得られて報われたし、正真正銘のシンボルと化していたのがこの上なく美しい終わり方でした。仮面がある限りブルースはブルースでいられないというレイチェルが指摘した懸念点も、バットマンが犠牲になったと思わせたことで解決してしまった。その上で、今度は仮面がブレイクに継承されるのも熱い。私はやっぱり危うい均衡の上でバットマンが苦しみながら守っていた腐敗のゴッサムが好きなんだけど、ブルース・ウェインの物語としてもゴッサム・シティの物語としても、ここまで綺麗に着地してくれたら文句は出てこない。ゴードンに正体を明かすところも泣けた。レイチェル相手の時もそうだったけど、毎回遠回しに明かすのが可愛いんだよね。ゴードンは今回もめちゃくちゃ頑張ってたので、彼も嘘から解放されて良かったなと。

欠点は敵に魅力がないところで、特にベインの扱いへの不満が大きい。序盤は面白そうなキャラクターに見えたのに、ミランダの言いなりだったのが残念すぎる。そもそも「影の同盟」が魅力のない組織だったので今更引っ張り出されてもな……。ミランダも復讐というにはやってることが回りくどいように感じてよく分からん。この映画はクッソ長くて中弛みもあったけど、ベインとミランダの描き方がいかんかったのでは。奈落でのシーンも退屈でちょっとしんどかった。ただ、あそこでブルースが這い上がろうとしている時に、父親の「人はなぜ落ちる？」という問いかけがフラッシュバックするのは良かった。あと唐突なスケアクロウの裁判も結構好き。癒しキャラなのかもしれないな彼は。

ところで『ビギンズ』を見るまではノーラン監督の本格的なアクションシーンを含む作品を見てなかったから気づかなかったけど、カーチェイスは毎回素晴らしい（というかバイクのフォルムとギミックがいい）のにそれ以外のアクションシーンは見づらかったりつまんない画だったりするので、アクションシーンを格好良く撮るのがあんまし得意ではないのかなと思い始めた。バットマンとベインのステゴロも画面に映えないし、銃を持つ集団に警官が一斉に丸腰で駆け出すところも間抜け感が漂っていた。あんなん蜂の巣にされるに決まってるでしょうが。

それでも、見終わった後に得られた満足感は大きかった。この辺はやはりノーラン監督のセンスによるものなんだろうな。三作から成るバットマンの物語に上手くエンドマークをつけてくれただけでも大きい。キャストはクリスチャン・ベイルを始めとして毎回豪華だったし、マイケル・ケインやモーガン・フリーマンの心地良い声を聞けるのも美味しかった。ハンス・ジマーによる重厚な音楽も素晴らしくて、映画を見終わった後にサントラを聞きながら感想を書くのが至福の時だった。やっぱり『ダークナイト』の出来が突出していると思うし今回は粗もめちゃくちゃ多いんだけど、ノーラン監督によるバットマン・サーガの最終作としては想像以上に綺麗に終わっていてかなり満足した。面白かったよ！