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『ボーン・レガシー』感想

ボーンの孤独な戦いの裏で起きていたもう一つの事件を描くサスペンス・アクションで、『ボーン』シリーズのスピンオフ。……なんだけど、この出来ではスピンオフを名乗るのも烏滸がましいよーな。アクションはシリーズの焼き直し感はあるものの普通に格好良かったし映像も怒涛のカット割りがなく見やすかったから、この映画だけなら「つまらないけどアクションは格好良かった」で済んだ。けどシリーズの要素を中途半端に引っ張ってきたかと思えば、無駄に引っ掻き回して終わったのが最悪。

まず薬が登場するところから面食らった。可能な限りリアルに寄せてストイックな作品を作り上げてきた『ボーン』シリーズに、薬で知能と肉体を強化するという要素を付加したのは失敗だったんじゃないでしょーか。更に言うと、アーロンが薬を求める理由も語られはしたけど釈然としない。薬が精製中止になった理由もよく分からん。なのにアーロンには戦う理由がなく、薬だけが唯一のモチベーションになったまま物語が進んで行くのがよろしくない。

リックのパートも相関図を把握出来ないからストーリーがだいぶ分かりにくい。そもそもリックの所属している国家調査研究所ってのが中途半端で謎い組織だし、このシリーズの主人公の敵はCIAだけなのがシンプルで良かったのにな。計画が実は四つもありました的な展開もしょっぱい。凄腕の暗殺者を育成するトレッドストーン計画があり、トレッドストーン計画をアップデートしたものがブラックブライアー計画で、薬で暗殺者を作り上げるのがアウトカム計画で、ブラックブライアーやアウトカムよりすごいのがラークス計画、とか言われても「なんじゃそら」と言う感想しか出てこないんですよ。いたずらに組織や計画をポンポン生やすのではなく、これまでのシリーズのCIAもそうだったけど都合の悪い事態になるとすぐ関係者を抹殺しようとする短絡的なところから直した方が……。

更に不満を挙げると、ダラダラ進むしいちいち回想が入るしでテンポがたいへん悪い。物語の起動も遅かった。これまでのシリーズが全部サックサクだったから余計に気になってしまう。基本的に肝心なことをぼかしたまま進行して最後まで納得のいく答えが得られないので、フラストレーションが溜まる映画でした。ジェレミー・レナー(マニラの狭い路地で警官に挟まれたマルタを助けるために、屋根から狭い隙間を滑り落ちるシーンはいい)やレイチェル・ワイズは好きなだけに残念というか、だいぶもったいない。続編がありそうなエンディングだったけど、せっかくマット・デイモンが綺麗に畳んだ風呂敷を雑に広げ直した感があり、ここからどうすんだという疑問が……。