地球平面説を信じる人を追うドキュメンタリーで、これが想像以上に面白かった。私も影響を受けやすく騙されやすい自覚があるけど、地球球体説を疑ったことはないのでマークの提唱する地球平面説はトンチキに思える。けどこれを最後まで見たら彼らの探究心も情熱も嘘だとは思えなかったし、みんなイキイキしててあまりにも一生懸命なのでバカにする気にはなれなくなってしまった。むしろちょっと切なくなったというか。
ただ、科学者(とマジョリティ層)の「我々が正しい」という傲慢さが、マークのような人間やマークの形成したコミュニティとの断絶を加速させることになるのだと作中のインタビューで警鐘を鳴らしている人がいたけど、私が抱いた憐憫こそがまさに傲慢であることの証なんだろうな。でもこれが正直な感想で、やはり歩み寄りはなかなか難しいのかもしれない、とも思ってしまった。だから彼らの中には孤独な人も多く、同じ考えの孤独な人同士の繋がりは強固になり、論敵に対しては頑なになってしまうという……。
興味深かったのは、思い込みが激しいのもあるのか平面説を支持する人同士でも衝突を起こしていることで、それはすんげえ疲れる話だなと。実際マークはうんざりしていて、でもそこが面白かった。あとパトリシアがCIAの手先だと疑われていて根拠が「名前の最後の三文字が "CIA"」だったりとバカバカしいものなんだけど、その時のパトリシアの言葉が印象的だった。
「彼らにデマを流している意識はあるのかしら? それとも行き過ぎて真実との見境がつかないの? だとしたら私が信じることも怪しくなってくる。彼らと同じ? 絶対に違うわ」
私にはそんな彼女が滑稽に見えたけど、自分もああだったかもしれないし、すでになってるのかもしれないし、今後ならないとも言い切れない。味わい深いエピソードでした。
ラストもいいオチだったけど、2万ドルで購入したジャイロスコープで実験してもレーザービームを用いて実験しても地球の自転が証明されてしまうのに、それでもまだ決定的な証明はされていないのだと諦めない姿がやっぱり滑稽というか、哀しい。立証しようとしてちゃんと自分たちで実験しているところは称賛されるべきだと思うから尚更。
「物事を懐疑的に見る人と否定する人との差は、小さいようでとても大きい。懐疑的な人は自分の仮説も疑って実験をして、真実を知ろうとする。自分の誤りが証明されたとしてもだ」
「(マークたちは)自分の誤りを立証するデータは探さないし、精査することもない。自分を正当化するデータだけを探す」
今はコロナ禍で色んな陰謀説がより目立ってきているから、この説明はすんなり納得できてしまうんだよな。今見たからこそより面白く感じた、というのはあると思う。「インポスター症候群」や「ダニング=クルーガー効果」という言葉も知ることが出来たし、得られるものも多くて見て良かった。