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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『チョコレートドーナツ』感想

ゲイのカップルとダウン症の少年というマイノリティの擬似家族を描くドラマなんだけど、こういうのを見るたびに一度は深く根付いてしまった偏見を覆すことの難しさを痛感させられる。それでも役者やキャラクターの力もあり、たいへん魅力的な作品でした。

特にルディのキャラクターが立っていて、演じたアラン・カミングの歌声と表情がめちゃくちゃいいんだよな。マルコに向けた慈愛の眼差しもいいし、確固たる信念の元に動くところは格好良い。そして序盤でマルコを連れてきたルディは、家庭局に行けと冷たく突き放すポールに「施設に放り込めと? ひどい場所よ」とまるで見てきたように言う。つまり施設にいたことがあるんだな彼は。マルコに肩入れするのも幼い自分を重ねていたからで、だからこそ彼の言動に説得力が増して更に魅力的に見えた。ポールも法廷での真摯な訴えにぐっと来たし、マルコも笑顔がすんげえキュートだった。だからこそ三人を引き裂こうとするものすべてが悪に見えるんだけど、時代が時代なだけに残酷な結末に到達してしまう。ハッピーエンドを愛するマルコにとっても、そんなマルコを愛するルディやポールにとっても無慈悲な現実がやり切れない。

「これは差別なのよ」と言うルディに「差別じゃない。それが現実だ」と返したポール。「ゲイの場合、勝ちはほぼ不可能だ」と忠告するロニーに「ゲイの場合、何でもほぼ不可能よ」と返したルディ。でもマルコへの想いを表現するルディの力強い歌声と、法の番人たちにマルコへの想いを切々と力強く訴えるポールの手紙でこの作品は終幕する。形は違えど、二人の社会の不条理への戦いの意志を感じるラストでもあったと思います。

マルコの母親マリアンナについて。女一人でダウン症の子供を育てるのは私の想像の及ばないほど辛いのだろうし、彼女が薬に手を出したのは哀しいことにマルコの存在も原因になったのかもしれない。マリアンナについてはほぼ語られないので、私が勝手にもっともらしい理由をつけているだけなんだけど、もしそうなら彼女にも差し伸べる手があればマルコの未来は違ったのかもな、と。