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『フェイブルマンズ』感想

スピルバーグの自伝的映画と聞いて映画讃歌を謳う作品かと思ってたんだけど、まったくそんなことはなかった。むしろ映画を撮ることはしんどいことだと何度も言われるし、実際サミーは撮った映像を公開して拍手喝采を浴びても一人だけいつも辛そうで、周りとの温度差が凄まじく孤独になっている。しかし映画を撮ることの暴力性を自覚していきながら、それでも映画を作ることを結局はやめられない。哀しみの中にいる家族にカメラを向けようとする鏡の中のサミーの姿が印象に残っています。彼は辛いことに会った時、それをカメラに収めることでしか対処できないのかもしれない。

とはいえ前半は凡庸な物語としか思えず、眠気との戦いになっていた。母親の秘密を知ったあたりからようやく没入できたんだけど、この映画で一番面白かったのはバート、ミッツィ、ベニーの三角関係かもしれない。三人の具体的なシーンはないけど、子供のサミーの視点から描かれるからこその三人の関係がとても危うく魅力的に思えた。「悲劇を娯楽にしてしまう」というサミーの呪いのような残酷な才能を、見ている私が証明させられてしまったような気も。しかし母親の不貞の瞬間を編集したフィルムをわざわざ残しておくってのが、もうやべえよー。両親を演じたポール・ダノミシェル・ウィリアムズはどちらも良かった。あと「自分が到達できない場所にいる天才の夫から崇められる妻は辛い」という妹の台詞が好き。

プロムのシーンもハイライトの一つになっており、特にローガンとのやり取りは語りすぎてなくて良かった。凡庸でクズな人間の努力を無視して英雄のように描かれることにローガンが耐えられず泣き出すところから、怒り狂うチャドをローガンが殴り、その後サミーに煙草を渡すあたりも含めてぐっと来る。友情に至れないような至ってしまうような、一瞬の空気がすんげえいいのよね。あとモニカが最高。

地味だとは思うけど、映画の魔力と業(本当に業としか言いようがない)を描いたいい映画だったと思います。これはスピルバーグにしか撮れないだろうなと。