たいへん面白かったです。旧態依然とした国粋主義の世界にエキセントリックな天才が放り込まれて世界を変えようとする、というテンプレ展開は大好物なので、櫂が敵の妨害工作にもめげず戦艦の建造計画の不正を暴いていくのが痛快だったし、櫂と田中のやり取りも楽しい。思った以上にエンタメ映画になっているので見やすかった。そして何より、美しいシナリオ構成にやられた。私はやっぱり絶望と皮肉が生きる話が大好物なんだな、ということも実感した。クライマックスではアクロバティックなツイストを見せられるけど、この豪快さと残酷さを併せ持つが故のカタルシスがまた最高だった。一切だれずに最後まで物語に没入できたのは久しぶりかもしれない。
まず最初の重量感のある大和沈没から見入ったし、大和が撃ち落としたはずの墜落機からパラシュートで海に脱出した兵士をアメリカの哨戒機が颯爽と救う光景を呆然と眺める日本兵のシーンもいい。こうして誰もが知る「負け戦」という史実を強調するオープニングが、ラストには更に残酷な意味を伴って生きてくるのがいい。
後半の法廷劇のような会議も面白かったけど、今までの「櫂にとってのゴールポスト」が「日本にとってのゴールポスト」にすり替えられてしまうラストの平山中将との会話はゾクゾクした。驕り高ぶり、世界から孤立しても尚、歴然とした彼我の国力差を直視しない国民を絶望させるための、巨大で美しい戦艦大和の建造。この計画を櫂が受け入れてしまったのは平山の悪魔的な狙いに説得力があったからで、つまりそれだけ日本国民そのものがすでに怪物化してしまっていた。そして戦艦の図面を描いていた時の自分の表情を自覚していなかった櫂ですら、例外ではないのだと平山に鋭く糾弾される。だからこそ彼は平山の狙いに同調するしかなかった、という皮肉が美味でした。
菅田将暉の櫂や柄本佑の田中も魅力的だったけど、平山は出番も少ないのに存在感もあり、演じた田中泯が素晴らしかったです。真珠湾攻撃を想定して高揚する軍人の顔を見せるシーンが印象的な山本五十六役の舘ひろしも渋い。他にも田中克也、橋爪功、國村隼と錚々たるキャスト陣はみんなハマっていたように思うな。ちょっと説明しすぎなところはあるものの、そんな欠点を飲み込んでしまうほどの大傑作でした。
