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『戦場のメリークリスマス』感想

戦時中、日本が負けるという結果がほぼ見えている頃のジャワの俘虜収容所を舞台に日英兵士の人間模様を描くドラマなんだけど、正直キャラクターの心の機微は分かりづらく、理解できている自信はない。それでも最後はボロボロ泣いたし、好きな作品の一つになったので不思議な映画ではあります。冒頭、早朝の収容所の中をハラやロレンスたちが歩いていくオープニングを見た瞬間に、私にとってこれは特別な映画になるのだろうなという予感はしていた。楽曲「Merry Christmas, Mr. Lawrence」の存在も大きい。

基本的には四人のキャラクターを軸に物語が動いていくけど、四人ともそれぞれに魅力がある。「死に損なった」ことを恥じているヨノイは、厳格であろうとするが故に異彩を放つセリアズに惹かれていることを自覚するわけには行かず、自分の精神的秩序を守るためだけに暴走していく。そんな難しい役を演じた坂本龍一が良かった。演技は上手くないんだけど、独特の目力があってヨノイのキャラクターにぴったりだった。最後は瀕死のセリアズに敬礼し、遺髪をロレンスに託して奉納しようとしていたのが泣けた。

そんなヨノイを一目で虜にしてしまうセリアズは、デヴィッド・ボウイの美貌に説得力がありすぎた。自由奔放で不遜なのにどこか影があるから、尚更ヨノイは心を奪われてしまったのだと思います。セリアズもいじめに合う弟を前に見て見ぬふりをしてしまった罪に囚われて生きてきた男なんだけど、終盤の凝り固まったヨノイを宥めるような、まるで弟に対する兄のようなキスシーンが素晴らしかった。あれはヒックスリーというよりはヨノイを救うための行動だと思うけど、結果的にはセリアズを解放することにも繋がったのだなと。

北野武の演じるハラは鬼軍曹で「生き恥をかくくらいなら潔く切腹すべし」というような男だけど、罪を犯して自死した軍人を戦死扱いにすることを提案するような気遣いも出来るところに彼本来の性質が垣間見えて、なんだか少し切なかった。あと後半、ロレンスやセリアズを釈放するシーンで「今夜、私、ファーゼル・クリースマス!」と言いながら笑うシーンがめちゃくちゃいい。ラストの明朗な片言英語で紡がれる「メリー・クリスマス。メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」の祝福と笑顔に至っては、どうして泣けるのか分からないままボロボロ泣いた。それくらい北野武の笑顔が良かった。

温厚で聡明なロレンスもトム・コンティがハマり役でした。ハラと「恥」という概念について語るシーンと、ハラの処刑前日のハラとのささやかな交流が印象に残っています。対話の重要性について理解しているからこそ彼は日本語も話せるんだと思うけど、ロレンスが言うように「自分は正しいと信じている人々」との対話はいくら言葉を尽くそうとしても難しい、ということを実感させられる。これは戦時中に限らず今でもそうだけど、だからこそというか。