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『地獄の黙示録 ファイナル・カット』感想

地獄の黙示録 ファイナル・カット(字幕版)

戦争映画を娯楽として消費することに抵抗感がないと言えば嘘になるけど、三時間という長尺が気にならないほどに面白かった。特に哨戒艇でゆく地獄巡りの、滑稽でコミカルでスペクタクルな描写が圧巻。

印象的なエピソードはいくつかあるけど、中でもロバート・デュバル演じるキルゴア中佐が強烈。サーフポイントを確保するためだけに爆音の「ワルキューレの騎行」と共にベトコンの拠点に総攻撃をかけ、林にナパームをぶち込んで「朝のナパームは格別だ」とのたまうキャラクターがいい。わりと序盤に登場するのに見終わった今でも真っ先に思い出されるもんな。めちゃくちゃな上司なのに部下には信頼されている、てのも分かる気はする。

哨戒艇のクルーが、船で移動していたベトナム人を些細なことで皆殺しにしてしまうところも見入る。かと思えば瀕死のベトナム人を病院に連れて行こうとしたり残された子犬を大事に抱えたりする滑稽な姿が、カーツ大佐暗殺や戦争そのものに疑問を抱きつつあるウィラードを追い詰めていくのがまた面白い。しかしクルーの中で最初に死んでしまう若いクリーンを演じていたのが、あのローレンス・フィッシュバーンだったとは驚いた。他にも指揮官不在なのに殺し合う無秩序な米軍基地の有様を見て更に表情を失っていくウィラードや、現地人の投げた槍で胸を貫かれたチーフがウィラードを道連れにしようとするシーンも壮絶。

気になる要素もある。フランス人入植者とのエピソードは緊張感が途切れた感じもあったけど、クリーンの埋葬シーンは良かったと思う。ただ、食卓での議論は説明しすぎているのが気になった。更に終盤のカーツ大佐の登場からは物語が停滞してしまう。マーロン・ブランドは存在感もあるし思わせぶりな撮り方もあって迫力はあるけど、カーツの苦悩にはピンと来なかったな。ウィラードがカーツを殺したのは命令に従ったのではなく強い意志によるものだったけど、その動機や理由にも私は理解が及ばなかった。

とはいえ道中のストーリーや画は凄まじく見入ってしまったし、カーツ登場からは話は停滞するものの何故か退屈はしなかった。『ゴッドファーザー』のような洗練された作品ではないけど、混沌への抗い難い魅力に満ちた名作ではあったと思います。