ロログ

ネタバレ映画感想とかいろいろ

『仄暗い水の底から』感想

仄暗い水の底から

水を扱う作品は他にもあるけど、灰色が常に画面に張り付くようなじめじめした概念としてここまで描く作品はあんまり見ない気がする。亡霊そのものよりも、周りの嫌な人々の嫌な感じのほうがずっと嫌なものとして描いていたところも好き。淑美が一番恐れているのも亡霊ではなく自分と娘の生活を脅かすものにあるところも面白かったし、しかし亡霊の存在が淑美を不利な方へと追いやっていくのが……。そこがまた面白くもあります。

印象に残っているのは途中で岸田弁護士が動くところで、この時は管理人も不動産屋も調査に来てくれるのが心底クソだなと思った。彼らは相手が「男性」で「弁護士」だから応じたけど、淑美がクレームを入れても適当にあしらったのは「女性」で「母親」だからであり、彼女が舐められていたということがよく分かる。あと終盤、エレベーターから水流が溢れ出るところは『シャイニング』っぽくて謎にテンションが上がってしまった。

天井の水漏れなどは写真を撮って粘り強く管理人や不動産にクレームを入れたらなんとかなるとは思うんだけど、それが出来ない事情が淑美にあるのはよく分かる。彼女は元夫と親権を争っているから、そう簡単に引越しできないんよね。あと、この時代のガラケーなら写真を撮れないというのもあるか。

結局、淑美は郁ちゃんを守るためだけに少女の地縛霊に敢えて捕まってしまうのが、怖いというよりは悲しい話でした。ただ、十年後のエピソードを入れた意図は分かるけど、そこだけはちょっと冗長だったかなと。元気な郁子を廃墟になったマンションから見守る淑美と美津子をちらっと映す、くらいで良かったと思うんだけどな。

ところで音楽がいいなと思ったら川井憲次なのね。納得。