「登場人物がクズばかりで誰にも共感できない映画」とは聞いてたので、キャラクターにイライラさせられるとしんどくなってギブアップすることの多い私が最後まで見られるか不安だったけど、これは杞憂に終わった。確かにクズばかりだったけど、クズだからこそ「何故クズな女と汚らしい男は同居しているのか」という点が気になって最後まで見れたし、一方通行の身勝手な関係や愛憎劇が単純に面白い。ラブストーリーかと思いきや中盤からはサスペンス要素が強くなり、更に目が離せなくなる。
役者の演技にも引き付けられた。特に蒼井優の演じる十和子は圧巻。今まで色んな映画を見てきたけど、ここまで演者の目にゾッとさせられることはなかったと思う。誰かに依存する目、嫌悪する目、憎悪する目、何かを諦めた目といずれも強烈でした。あと松坂桃李の「軽薄で面白味のない男」が完璧。完璧すぎて面白くないくらいに合ってたからつまんねえ配役だなとも思ったけど、この役で「つまんねえ」と感じさせてくれるのがすごいというか。竹野内豊の黒崎も下衆っぷりが輝いてて良かった。一方、阿部サダヲは熱演してるんだけど、彼の陣治にはそこまでの嫌悪感がなかったのは私が阿部サダヲに対して抱いているイメージのせいかもしれない。
登場人物はクズばかりだけど、まったく共感できないということはなかった。彼らのように極端ではないにしろ、私にも誰かを利用したり罵ったり、欺瞞だと分かってはいても気持ちのいい世界に浸りたいなと思うことはある。けど、陣治にだけはまったく共感できなかった。黒崎も水島も救いようのないレベルのクズだけど、十和子はそれでもすぐには別れようとはしない。相手が酷い男だと知っても身を委ね、依存せずにはいられないほど彼女は弱い。だから男のほうも十和子を都合良く利用する。でもこれは十和子と陣治の関係もそうで、十和子は陣治を都合良く利用するような酷い女なのに、陣治は彼女と別れることはなく、ひたすらに尽くす。でも十和子は結局耐えられなくて黒崎や水島を刺してしまうけど、そうはならないところに陣治の狂気が出ていていいなと。結局、彼は十和子に生きる意味を勝手に押しつけて死んでいったけど、彼の「無償の愛」は身勝手なので私は感動できなかったし、むしろ十和子は更に呪われてしまったのだと捉えた。けど、この呪いじみた結末こそがとても好き。感動はしないけど刺さる。これでラストの陣治の台詞や回想が説明過多でなければ完璧だったな……。
一番印象に残ったのが、二人でギリギリ電車に乗った後に割り込んできた若い男の乗客を陣治が突き飛ばすシーンだった。十和子と陣治の目と表情、二人きりになったかのような電車内の演出と、あの息が詰まるような時間が美味。しばらくは忘れられそうにない。
