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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『凪待ち』感想

白石監督の作品はいつも退屈しない。他の人が撮ったらだれてしまいそうな作品でもするする見られる。今回もそうだったし、ギャンブル依存症にもがく男を演じた香取慎吾も良かった。亜弓と結婚しようとしないし、美波を引き取ろうとしないし、亜弓を殺した犯人を探そうともしない。ただ、フラフラと吸い寄せられるようにノミ屋に入ってしまう。そんな無気力な男を表現する表情と巨体と佇まいに、くたびれた中年としての凄味がある。私は何度もコンサートに行ったくらいにSMAPが好きだったけど、ドラマを見ない人間なのでどんな演技をするのかちゃんと知らなかったんだよね。だから「演じる香取慎吾」も新鮮な気持ちで見られたし、想像以上の好演にも感動した。脇を固める吉澤健、恒松祐里西田尚美リリー・フランキーもいい。この映画が面白かったのはキャスティングの勝利もあったのだと思います。

見る前はもっとえぐい話を想像してたけど、実は優しい映画だった。人は救いようのない他人にも手を差し伸べられるし、ちょっとしたことで過ちも犯してしまう。絵に描いたような聖人はいないし極端な悪党もいない世界で、だからこそ郁男は苦しむのだけど、同時に他人によって救われる。

だから何かと郁男たちの面倒を見ていた小野寺が亜弓を殺したのだとしても、なんら不思議はないんだよな。詳しい動機は語られないけど亜弓が行きたかったという南の島の名前を小野寺が郁男に告げるシーンで察せられて、ここは彼の優越感が苦かった。郁男も辛い。亜弓が殺されたのは郁男のせいではないけど、郁男の行動の結果にはなっているから「自分のせいではない」とは割り切れないのも分かる。

それでもラストは優しい。呆気ないほどに上手く行っていいところに着地するけど、この映画ならこれが自然だと思える。郁男は結局あんまり変わってないようにも見えるんだけど、「あんまり」と書いたように僅かに進歩したかもしれないなとは感じたので、落ち着いたらとりあえず病院に行ってほしいな。