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『アベンジャーズ/エンドゲーム』感想

もう感無量の一言に尽きる。カタルシスの暴力にやられて最後の一時間くらいは泣きっぱなしだったし、見終わった後も興奮と寂しさと感謝とで怒涛のような感情が溢れて止まらなかった。『アイアンマン』を見始めた時はここから追うのはしんどいなと思ったものだけど、結果的には付き合ってきた時間以上の価値を得られた。シリーズをすべて公開順に見てきた時間がそのまま最高の形で返ってきたから、もう「生きてて良かったな」とすら思ってしまった。そしてこういう感動が得られるから映画を見るんだろうな、とも。

見る前はとにかくサノスをどう倒すのかが気になっていたから、初っ端からサノスの首が飛んだ時は度肝を抜かれた。しかし自分がきちんと仕留めていたら勝てたはずの戦いに負けたことを気にしていたソーが、サノスの目的が達成された後に今度こそ斬首する、という形で殺したのがもういたたまれない。これでソーは更に惨めになり、それも含めてサノスの勝ち逃げはこれ以上はないほどに凶悪で、後味の悪さだけしか残らないのが最悪で最高だった。

一方で過去のサノスは未来の自分が目的を成し遂げたことを知り、それでも歯向かってくる存在がいるのならすべてを塵にしようと考える。ここでサノスが明確な "敵" になり、アベンジャーズが "主人公" になるのが熱い。そこからそれぞれの葛藤の末に過去へとタイムスリップするのがすんげえ面白かった。過去作の復習を兼ねつつ、今まで付き合ってきた観客へのご褒美だと言わんばかりのエピソードを大量にばら撒いていくのが、なんというかファンを楽しませる手際が良すぎてちょっと震えた。しかも状況を忘れそうになるほどに楽しいんよねあれ。『IW』のあのラストから、まさかこんなコミカルな展開が見られるとは思わなかった。でもシリアスなシーンもちゃんと入っており、ユーモアとのバランスや配置が絶妙で心置きなく楽しめる。トニーと父親、ソーと母親、キャプテンとペギーの再会がハイライトになっていたけど、エンシェント・ワンの再登場やジャーヴィスの名前の由来が判明したのも嬉しい。キャプテンがヒドラの連中とエレベーターで乗り合わせる『WS』を思い出す展開は、スマートに切り抜けていて彼の成長と時間を感じられてよかったな。あとアメリカのケツは吹いた。でも確かにあれは彫刻のような造形美を堪能できるケツだったな……。ただ、ナターシャの死は衝撃が大きかった。かつて自分が救った(らしい?)ナターシャを、今度は目の前で失ったバートンの心境を思うとやり切れない。ところでロキがキューブを拾ってたけど、あれでロキ生存ルートが発生することになるんでしょーかもしかして。

そうして二度と帰らない人との再会を経た後は、満を辞してその名の通り "アベンジャーズ" の戦いがキャプテンの号令で開幕するのがもう鳥肌。ここからは出し惜しみの一切ない豪華な代物で、興奮しすぎて涙が止まらなかった。贅沢な映像の暴風雨だったけど、特にキャプテンがムジョルニアを手にするところは脳が焼き切れるかと思った。雷すら纏う姿はただただ神々しい。ソーが嬉しそうに反応していたのも嬉しい。

トニーが死んでしまったのは寂しいけど、これで良かったのかなとも思う。トニーはヒーローには向かない人だけど、自分の才能を自覚していたしノブレス・オブリージュの精神からやめられない人でもあったから、解放するには「死」しかなかったのだと思う。サノスとの戦いで生存できたとしても、トニーは自分にしか務まらないことを知ってるからヒーローをやめられない。ずっとスーツを作り続けて精神をすり減らしていく。一度はスーツを捨てても、人口の半分が失われた五年の間に新たな道を歩き出そうとしても、それでも戦いから自分を切り離すことがどうしても出来なかった。だからホッとしたな彼が死んだ時は。ペッパーや娘のことを考えると、トニーが全てを察して犠牲になることを受け入れたのはエゴでもあると思うけど、トニーのそうしたところは『アベンジャーズ』でミサイルごと空へ向かった時から描かれていたので納得もした。息子のように可愛がっていたピーターが塵になってなかったら、戦うことを選択しなかった可能性もあったかもしれない。だとしても彼はずっと苦しみ続けただろうから、やっぱりこれで良かったのだと思う。しかしピーター復活の代わりに今度はトニーが死んでしまうのが、本当に無情としか言いようがないよな……。全員は救えない、という言葉が染みた。

そして今回はトニーやサノスを含めて大義のために何かを失うことが強調されていたから、ハワードの「大義のために個人の幸せを諦めることはない」という台詞が印象的だった。何かを犠牲にしてきたのはキャプテンもそうだったから、彼の最後の選択も素直に受け入れられたな寂しくはあるけどと。ペギーとのダンスの約束も、みんなとの「石を返した後はまたこの時代に戻る」という約束もちゃんと果たしているし、これで良かったのだと思います。盾がバッキーではなくサムに受け継がれるというのも、これはこれでなんか納得してしまうんですよね。

と、ここまで絶賛してきたけど不満もあって、特にソーの扱いはあんまし好きじゃない。弟とアスガルドの民の多くを失い、サノスを仕留め損ない、勝ち逃げされたソーが荒れるのは分かるんだけど、あそこまで劇的にだらしなく太らせる必要はなかったよーな。せっかくの大舞台なんだからちゃんと格好良いソーが見たかった……。トニーとキャプテンと、いつものソーの三人が雄々しく並んでサノスと対峙する画が見たかった……。バナーもハルクと融合したみたいになってるけど、バナーとハルクのそれぞれの個性が分散して中途半端になってしまった気も。といってもこれらの不満は小さなものだし、私の好みの問題でしかないので欠点というほどでもないけども。それくらいこの映画は面白かったんだよな。

ここまで巨大化したモンスターコンテンツを、記録を塗り替えるレベルの大成功まで導いた手腕は素直にすごいと思える。これだけの規模で観客からの絶大な信頼を維持し続けたことはとんでもない偉業だと思うし、後追いとはいえ私もそれを堪能できたのは幸福だった。MCU作品を追っている間は本当に楽しかったな。とりあえずトニーとキャプテンにはお疲れ様、とだけ。