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『ブラックパンサー』感想

抑圧された黒人社会への問題提起と共に、アクションやクライマックスの盛り上がりなどでエンタメとしても楽しめるような、クオリティの高い映画だった。テクノロジーとは無縁に思える雄大な土地と、ヴィブラニウムを駆使したハイテクノロジーな世界が表裏一体となっている、ワカンダという街を見せるリッチな映像美が圧巻。車の遠隔操作を見せられて子供のようにわくわくする一方で、歴史を感じさせる即位式の空気に思わず居住まいを正してしまうようなギャップが楽しい。

キャラクターも良かった。高潔なタイプはあまり刺さらないけど、ティ・チャラはチャドウィック・ボーズマンの魅力もあって好きな主人公になった。国の秘密が外に漏れる危険を承知で瀕死のロス捜査官を国に連れ帰るよう指示するところは、王としては意見が分かれそうだけど彼個人の真っ直ぐなところが出ていて好き。父のやったことを知って糾弾するシーンは王の風格を感じたし(しかしオーディンもそうだったけど、肝心なことは何も話さない父親キャラが多いのは何なんだ)、最後の国連での演説も格好良かった。スーツも黒と紫の組み合わせでクールだし、ダメージを吸収してカウンターを狙うというギミックが今まであまり見ないものでわくわくしたな。

キルモンガーも主人公に劣らず魅力的なヴィランで、ワカンダの美しい夕陽を目にした彼の最期のシーンは、これまでの保守的だった国の終わりと、世界に向き合おうとする新しい未来を同時に感じさせて象徴的だった。あと単純にドレッドヘアが格好良いんよね。天才でノリのいいシュリも兄さんと仲良しで可愛かったし、ナキアも視野が広く主人公にガンガン意見するところも含めて頼りになるヒロインだった。オコエは韓国でのカーチェイスで槍を手に赤いドレスを翻すのがめちゃくちゃ格好良かった。キルモンガーのような王であろうと職務を放棄せず仕える一方で、ティ・チャラの生存を知った時は即位式がまだ終わっていないのであれば、とキルモンガーに槍を向けるところに彼女のワカンダへの想いが表れているのがいいな。

あと美味しかったのは『CW』では悪役の印象が強かったロス捜査官で、危険を承知でギリギリまで輸送機を追うシーンが熱かった。旧態依然とした政治体制に縛られて国の脅威となるキルモンガーを生んでしまった父とは違い、ティ・チャラが誠意を持って接した結果なのがぐっと来る。国連で意志表明をしたワカンダ国王をみんなが嘲笑する中で、彼が頼もしそうに見守るところも好き。

しかしこうして振り返ると、ワカンダは女の存在感の強さを意識せずにはいられないな。シュリもナキアもオコエも王と対等に接し、王もそれを受け入れる。更にヴィランの登場によってヒーローたる主人公が学び、成長していくのも熱い。技術だけでなく価値観や考え方も先進的かつ柔軟で魅力的な世界観だなと思った。これは見終わった後に両手を胸の前でクロスしたくなる。制作者の丁寧な仕事ぶりが伝わるような、バランスのいい良作でした。