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『今夜、ロマンス劇場で』感想

男勝りな口調と破天荒な振る舞いで周囲に迷惑をかける美雪のキャラクターがキツかったし、あらすじを読んだ時は面白そうに見えたのに各キャラクターの言動が浅いせいで奥行きがなく、よってストーリーが盛り上がらず終盤までは何度も挫折しかけた。『ローマの休日』や『ニュー・シネマ・パラダイス』などの古典を取り入れたような展開は結構好きだっただけに、ほとんどの時間を退屈に感じてしまったのは残念。

まずファンタジーの設定が曖昧なのがよろしくない。自分がこの世の人間ではないことや人に触れたら消えてしまうというルールを美雪は理解していたけど、そこら辺からもうよく分からない。恋愛映画なんだから曖昧にしていい時もあるけど、これはちゃんと設定して活かした方がロマンス的にも盛り上がったんじゃないでしょーか。ここが中途半端だと据わりが悪いんだよな。それと健司と美雪は互いに触れ合えないことをずっと問題にしていたけど、健司じゃなくても誰かに触れられたら消滅するんだから、そちらのあまりに大きすぎるリスクを度外視しているのも謎。あと美雪の「白黒世界の住人」という設定はもっと活用して欲しかった。確かに綾瀬はるかの衣装の数々は可愛かったけど、鮮やかな色彩を放つ現実世界との対比はもっと描いてもよかったんじゃないか。なんかあっさりメイクや衣装でカラフルになってしまったように感じてがっかりしちゃったんですよね。お姫様は白黒のままにしたほうがエンディングの色が付く鮮やかなシーンも効いたと思うから、尚更もったいないと感じてしまう。

美雪のキャラクターに関しては私の好みの問題が大きいけど、序盤の美雪が起こす騒動が全部笑い話として済まされたのはたまたまそうなったというだけの話で実際は洒落にならないものばかりだし、健司が美雪に迷惑だと突き放した時も「その通りだな」としか思わなかったから、その後に健司が美雪に謝るのは納得がいかない。むしろ謝るのは美雪のほうだと思うのに、彼女は自分が迷惑をかけていることに気づいてないし健司も詳しくは指摘しないのでどーしよーもないのがモヤモヤする。北村一輝の演じる俊藤が癒しだったけど、彼がいなかったら挫折していたかもしれない。

が、終盤が予想外の展開で釘付けになった。美雪が現実に出現しなければ、健司は映画のキャラクターに憧れつつも美雪の言う「普通の恋」をしたのだろうけど、美雪が出現してしまったことで永遠に囚われてしまったんですよ。こえええ! かなり残酷な話だなこれ! もはやこの恋は呪いに等しい。本人たちが承知の上だからこちらは何も言えないけど、健司はショーケースの中の女を愛で続けるような人生で良かったのか、美雪も健司に触れられず他人に冷たい人間だと言われるような人生で良かったのか。

ただ、最後には死ぬ直前の健司と触れ合えたことで美雪も健司の死と同時に消滅したし(彼女は映画の世界に帰ったわけではなく、文字通りどの世界からも存在が消えたはず)、二人とも満足したんだろうな。「二人の物語」がハッピーエンドを迎えたことを健司が脚本にしており、それがエンディングでも再現されていることからも答えは出ている。まあ当人たちが幸せそうだからこれでいいのか。いいんだろなきっと。