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『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』感想

あまり期待せずに見たんだけど、面白かったしブッ刺さった。こういうえげつない話は大好きだし、レオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットという私にはたいへん美味しいキャストで演技合戦が堪能出来たのも嬉しい(ちなみに私は『タイタニック』をまだちゃんと見たことがない)。二人とも圧巻でした。

内容は簡単に言うと、現状に満足してないけど妥協は出来るフランクと病的なまでに「特別」を渇望するエイプリルのすれ違いでしかないのだけど、これがもう最悪で楽しかった。更に不動産の老夫婦と隣人夫婦が介入することで主役二人の歪んだ夫婦関係が浮き彫りになり、地獄絵図として完成されていくのもたまらないものがある。

特にすごいのが、フランクとエイプリルの間に産まれた二人の子供のあまりにも希薄な存在感。それもそのはずで、エイプリルにとって子供は呪いでしかないんだな。妊娠したから女優への道を諦めて、望んだ妊娠だったことを証明するために二人目を妊娠して、それでも心は満たされずパリへの移住に賭けようとしたところで妊娠して絶望する。フランクが堕胎を望んでいないと知った時も「私は子供を2人産んでるのよ。意見を尊重して」と母親とは到底思えない言葉を吐き出し、妊娠中は煙草をプカプカ吸うし隣人ともセックスする。だからこそ終盤のジョンの「その子でなくてよかった」という言葉が凄まじい威力を伴うのだけど、それでも結局エイプリルは中絶してしまうんだから彼女の壊れっぷりがよく分かる。

そもそもパリの移住計画自体が中身のない空虚な夢でしかなく、そんなものに縋ってしまうエイプリルが哀れで魅力的だった。どれだけ無謀だろうと「エイプリルが女優への夢を諦められないから」という理由をきちんと自覚していればまだ救いはあったんだろうけど、彼女は「フランクのため」だと言い張るから拗れてしまう。これは時代のせいもあるんだろうな。会社や現状に対して迎合できるフランクは、ここでエイプリルにも迎合してしまった。そのまま悲劇へと一直線に落ちていく。熱に浮かされる夫婦は見ていて痛々しかったし、その熱に侵された勢いでセックスして妊娠してしまうのが皮肉としか言いようがない。

そして精神異常者と言われるジョンだけがエイプリルを理解しているという事実が、また地獄を感じさせてくれて最高。夢を諦めたエイプリルがフランクに夢を作ってもらおうとしたように、ジョンもまたこの夫婦に夢を作って欲しかったのだと思う。

「"虚しさ" は誰もが感じるが、"絶望" を感じるには勇気が要る」

ジョンのこの台詞がとても好きなんだけど、絶望したエイプリルとジョンに対し、虚しさに浸かっていたフランクがエイプリルによって絶望させられてしまうのが印象的。マイケル・シャノンも素晴らしかった。

最後を不動産屋の老夫婦による「夫婦円満の秘訣」の提示で締めているのもいいよね。あれほど持ち上げていた夫婦の悪口を垂れ流す妻に対して補聴器の音量を下げる夫の姿は、この作品の終幕としては文句の付けようもない。美味でした。