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『レヴェナント:蘇えりし者』感想

すごい映画だった。冒頭の森の中の水辺を歩くシーンですでに引き込まれたけど、エマニュエル・ルベツキによって切り取られた映像群が素晴らしい。『ゼロ・グラビティ』や『バードマン』でも撮っていた撮影監督だと後で知って納得。今回も印象的な長回しのシーンが多く、キャラクターの体験がそのままこちらにも伝わってくるような画の迫力がすごい。特にこの作品は「自然」が重要に思えたので、そんなものを圧倒的な説得力で見せてくるから溜息が出る。貴重な映像体験でした。震えた。ちなみに好きな画は川岸に辿り着いたグラスが見た血が流れる川の中の妻の遺体の夢で、一瞬のシーンなんだけど惹きつけられた。

序盤は熊に襲われるところが壮絶で、一方的に嬲られるグラスが痛々しい。そうして熊に半殺しにされ、真冬の川を漂流し、首の傷口を火で塞ぎ、魚を生で食い、牛の内臓も食い、崖から馬ごと転落し、馬の内臓を取り除いて死体の中で全裸で暖を取る。基本的には息子を殺された父親による復讐劇で、驚異的な生命力と憎悪で突き進むグラスの執念の物語ではあるのだけど、道中の自然の脅威に震えながら自然の恩恵によって生き延びていくグラスの姿がすさまじく、まさにフィッツジェラルドが言っていたような「神は与え、神は奪う」話でもある。最後に復讐を神の手に委ねるところも含め、最初から最後まで一貫して「自然」を描く作品だったんだなと。

そんな中で描かれる人間同士の「奪う者」と「奪われる者」も面白い。キャラクターはグラスを含め、みんなはっきりしているのがいいんだよね。特に強欲なフィッツジェラルドはトムハの持つ力強さも相俟って色んな意味で強い。彼は下衆にも映るけど、生き延びるために合理的な判断を下すのは間違ってはいない。しかし他人から奪い続けた結果、フィッツジェラルドが奪われる者に変わってしまうのも面白い皮肉で、それも相手が息子を奪われたグラスってのが。そして最後に息の根を止めたのは白人に奪われ続けたインディアンで、開拓時代の迫害の歴史を描く作品として見ても納得の最期だったと思う。嫌な奴ではあるんだけど、好きなキャラクターだったなフィッツジェラルド。トムハがハマり役だったマジで。

グラスの執念と同時にディカプリオの執念も感じたほどの渾身の演技だったので、今作で彼がオスカーを取ったというのも納得。そこまでやるんかい、とドン引きするようなことも撮影で実際にやっているようで、方向性は違えどトム・クルーズを見ている時の気分に近いかもしれない。ちなみにグラスとポーニー族の人が二人で空に向かって舌を出しながら雪を食べるシーンと、洞窟で休んでいる時にアリカラ族の気配を察して目を剥くシーンが好き。笑顔の可愛さと、美しい目の力強さが印象的だった。改めてオスカー取得おめでとうございましたレオ様。ヘンリー隊長役のドーナル・グリーソン、ブリッジャー役のウィル・ポールターも良かった。

ただ、映像美と役者の演技に引き込まれっぱなしの二時間半でだれなかったけど、それでもちょっと長いとは思ったな!