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『ミッドサマー』感想

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
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家族を一気に失って悲嘆に暮れるダニーが、恋人や大学の友人と北欧の小さな村に訪れて祝祭に参加するドラマ。刺さらなかったけど名作だとは思った。

最初に目を引いたのは明るく優しい色で構成されたホルガ村の光景なんだけど、それなのにめちゃくちゃ不穏で、すぐに「自分の持つ価値観は捨てて鑑賞した方が良さそうだな」と思わせてくれたのが面白かった。案の定、狂っているとしか思えない儀式を見せつけられるんだけど、美しい景色とグロテスクな画のコントラストが強烈で不快感もなく見入ってしまった。ぐるぐる回りながらみんなで踊るのとか、全裸の女性陣に囲まれてセックスさせられるのとか、熊の死体に入れられる成人男性の姿とか、それらは全部異様な光景なのに後半には何が来ても驚かないくらいに麻痺してくる。

そうしたおぞましいほどの「文化の違い」以上に印象に残るのが五人の大学生の描写で、特にダニーとクリスチャンの関係は面白い。序盤ですぐ男は全員クソ野郎だと分かるんだけど、この時点ではクリスチャンがダニーを鬱陶しいと思う気持ちも理解は出来た。ダニーの依存も事情も重すぎて、一介の大学生が受け止めるには厳しいと思うんだよね。まあさっさと別れたら良かったんだけど、グズグズしている間にダニーが家族を失ってしまったからそれも簡単には出来なくなった。でもジョシュが書いてる論文のテーマを思いつきでパクろうとしてたのは笑った。やっぱりクソ野郎だ!

そのジョシュもクリスチャンが論文を同じテーマにしてきたことで焦ったのもあるんだろうけど、禁じられていたのに無断でルーンの聖書の写真を撮っていたのはよろしくない。マークに至ってはもはや論外。堂々たるクソ野郎です。

ペレは最初から友達を生贄にする気満々だったけど、彼はホルガ村の風習に従っているだけなんだよな。でもホルガ村の文化を私の物差しであれこれ言うのはどうかと思うけど、彼らは違う文化の下で生活している何も知らない他人を巻き込んでいるのでやっぱりろくなものじゃない(おまけにダニーの家族の死のタイミングがあまりにも出来すぎていることから、彼があの心中事件に関わっている可能性もある)。クソ野郎です。クソ野郎ばっかで楽しい!

そして家族を失い、恋人や友達にも鬱陶しがられて居場所もなかったダニーは、一方的に依存しなくても共感してくれる "家族" と、「女王」という最上の "居場所" を得られたことで救済される。踊ってる時からぐっと良くなるんだよね表情が。

ただ、気になるのはホルガ村の人たちが事あるごとに薬を使っているところで、クリスチャンだって薬を飲まなきゃ違ったと思うんだよな。ダニーがクリスチャンとマヤの性交を目撃したのも巧みに誘導されていたからで、彼女も "共感" という劇薬をぶっ込まれてホルガという共同体に引き摺り込まれた印象を受ける。何よりラストの儀式では、犠牲になることを自ら志願したはずのイングマールとウルフが火に包まれながら怯えていた。実は彼らはちっとも満たされてないんじゃないのか。だからラストで見せたダニーの笑顔も明るいように見えて不穏で、まさにホルガ村から受ける印象そのものだった。こんな歪な救済で彼女は解放されたのか? 本当に? この時点では「とりあえずハッピーエンド」ではあるんだろうけど、同時にホルガ村からは欺瞞の香りも漂っていて、今後の彼女の地獄を予感させる結末でもあったと思います。