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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『ファイト・クラブ』感想

ひたすら殴り合う "ファイト・クラブ" という組織を、不眠症に悩む主人公が危うい一人の男と作り上げて変わっていくスリラー。実を言うと最大のネタバレを知った上で見たせいか、キャラクターは面白いとは思うものの、やや単調なのもあって後半まではなかなか話に乗れなかった。途中までは私がネタバレを知っていることと楽しめないことは無関係だろうと思ってたんだけど、そのネタバレが開示された後から一気に盛り上がってきたので無関係ではなかったのかもしれない。これだけ有名な作品だとネタバレに遭遇するのはもうしょうがないけど、何も知らない状態で見たかったなやっぱり。

真っ先に書きたいのはやはりタイラーのことで、今見ると彼は古い価値観による「理想」を具現化した男なのでどうしても古さはあるんだけど、それ以上に堂々とした振る舞いが格好良かった。ファミリー映画にポルノの一瞬のコマを混ぜたりスープに放尿したりと悪質な一部のYouTuberやバイトテロ(最近あまり聞かないし死語になりつつあるけども)みたいなことをするのはダサいなと思うけど、それでもブラピが演じると格好良さは否定出来ないからほんっとーーーにすごいなこの時期のブラピは。私はそこまでタイラーというキャラクターにはハマれなかったけど、それでも彼が魅力的なのは分かる。主人公の中にある暴力への衝動と男性性への憧憬が形になった存在としての説得力は、十分すぎるほどにあったと思います。まあなんつうか、スターなんだなブラピが。知ってたけども。

ブラピの圧倒的存在感が眩しいけど、主人公を演じたエドワード・ノートンもハマり役だった。上司を脅しながら自分を殴るシーンは滑稽で印象的だったし、タイラーと石鹸を作るエピソードは案外楽しそうで笑う。あと後半の雨の中を走る車内でのやり取りは、車線を移動したことで対向車のヘッドライトが二人の対照的な表情を照らすのが映像としても映えて好きなシーンになった。この辺りからやっと面白いと思えてきたから尚更。

破滅的な女であるマーラも面白いキャラクターだと思うんだけど、掘り下げが浅いのでそこは残念。主人公がタイラーの正体を知った後のマーラとのやり取りや、終末世界のロマンティックな結末にも見えるエンディングなんかはすごく好きなんだけど、だからこそマーラとのシーンがもーちょい欲しかった。もったいないですよほんと。

しかし私がこの映画を最終的に面白いと思えたのは、資本主義が産んだ消費社会にファックサインしておきながら、ブラピという華やかなスターをキャスティングしたり "映画" という娯楽の形を通して主張しているところにある。この皮肉に私ですら気づくんだからデヴィッド・フィンチャー監督も自覚的だろうとは思ってたけど、最後にサブリミナルのように男性器を映すあたり(最初は何が映ったのか分からずわざわざ巻き戻して確認し、思わず「ちんこやんけ!」って突っ込んでしまった)からも正解と見てよさげ? 主人公が観客に語りかけてくるのもタイラーが映写技師をやってるという設定も、そうした意図があってのことなのではないかと勘ぐってしまうんですよね。