束縛を嫌って後腐れのない一夜を楽しんでばかりのヘンリーと、毎朝記憶がリセットされるルーシーのロマンティック・コメディ。設定だけ聞くと深刻に見えるけど、主役二人を囲む人々や動物がみんな大らかで優しいしユーモアもあるから、真面目なシーンはあっても決して重くはならないのが良かった。ルーシーの表情もいい。特に屈託のない笑顔が可愛い。それも含め、夏に見るにはちょうどいい感じのロマコメだったなと。
事故に遭うまでの記憶はあるけど、それ以降は記憶を留めておけず眠るたびにリセットされ、事故当日を繰り返すルーシーは気の毒だと思う。しかしルーシーを気遣ったお膳立ての生活は、毎日それに付き合わなければならない家族も辛い。ルーシーは忘却出来るけど家族はそれが出来ない。だからそうしたぬるい地獄のような生活を打ち破ったヘンリーは、ルーシーだけでなくマーリンやダグも救ったのだと思う。
毎朝ビデオでルーシーの症状を告げることにした後は、ルーシーの特殊な記憶喪失についても気楽に言及して笑いに変えているのもいいな。腫れ物に触るような扱いよりはルーシーもその方が気楽だろうし、周囲もそれだけルーシーの症状は当たり前のものになっているのだと肌で感じられるだろうから。
終盤でルーシーがヘンリーの人生と夢を思って別れを切り出すのは切なかったけど、都合良くルーシーの症状が回復することなく無理のないハッピーエンドに持って行けたのは良かった。ルーシーが「夢を追いかける男の夢を見ていた」のが泣けるし、二人が再会した時の「会えて嬉しいわ、ヘンリー」がまたいいんだよね。どうしても「初めまして」になってしまう彼女が言うからこそ、再会を喜ぶ何気ない台詞が輝く。ぐっと来る瞬間でした。この着地はファンタジーだなとも思うけど、夏という季節やハワイという舞台にはそれが許される力があるのだと思う。
夢も恋も手に入れた完璧なエンディングも良かったけど、マーリンが一緒にいるところにもヘンリーの優しさが出ていて最高。娘や孫と共にいられるならマーリンも安心だろうしルーシーも嬉しいと思う。それとやっぱりルーシーは普通ではないから、彼女の父親がついていてくれるってのはヘンリーにとっても大きな助けになるのだろうな。
その日の記憶がリセットされる、という症状はあまりにも重いけど、毎日パートナーとの新鮮な日々を味わえることにも繋がる。それはルーシーだけでなくヘンリーにとってもきっとそうで、夫婦はどうしても長くいるとマンネリが出てしまうものだと思うけど、その点においてもこの二人の関係は強い。