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『砂の器』感想

砂の器 デジタルリマスター版

中居正広主演のドラマは見たはずなんだけど主人公の和賀がひたすら可哀想だったこと以外は内容を忘れていたので、ほぼ新鮮な気持ちで見れた。ミステリとしてはかなり雑な作りになってて強引な展開も多いけど、映像群にぐっと来る。旅情をそそられる刑事の出張や、台詞もなく延々と映される父と息子の旅路も美しいけど、私が特に印象に残ったのは意外にも昭和の日常風景だった。前半から刑事がひたすら捜査を続ける地味な展開が続くんだけど、捜査員がみんな扇子やうちわでパタパタ仰いでいるのがめちゃくちゃいいんだよな……。当時はクーラーがよほど珍しかったのだろうけど、この「昭和の夏場」の空気が良かった。あとはやはり最後の捜査会議、和賀による「宿命」の演奏、親子の放浪を交互に映していくクライマックスは哀しい迫力がある。

和賀英良については、婚約者のことは愛してもいないし情婦にも犯罪に加担させた挙句に中絶を迫るような酷い男なんだけど、彼は父親も切り捨てている。けど父親への愛を失ったわけではなく、むしろ切実に会いたいと思ってるんですよね。でも父親に会うことを己に禁じなければならないほどにハンセン病患者への差別が深刻だったから、彼は断腸の思いで諦めてしまった。そんなところに突然現れた三木に、父親に会うべきだと言われてしまった和賀の気持ちを思うと遣る瀬無くなる。三木は本当に親切心から、たいへんな人生を送ってきた親子をただただもう一度会わせてやりたかっただけなんだよな。しかし差別を経験してない彼に、親子の事情や思いを汲み取るのは難しい。そしてそんな親子の思いに気づいてやれたのが、和賀を逮捕しようとしている今西刑事だけだったという事実がまた切ない。

豪華なキャストだけど、特に千代吉を演じた加藤嘉の終盤の熱演が良かった。息子の写真を見つめてうめきながら、息子のために息子であることを否定するのが泣ける。あと伊勢の映画館の支配人役が渥美清なのはなんか笑った。