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『新幹線大爆破』感想

新幹線大爆破

テンポの悪さは少し気になるものの、それ以外は文句のつけようがない名作だった。『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』で減速すると爆発する列車が出てきたけど、これが元ネタなんだろうな恐らくは。1500人の乗客の命を助けたい国鉄、犯人を逮捕したい警察、その板挟みで苦しい立場に置かれる現場の職員(ただし乗客のパニックはちょっとやりすぎ感がある)、死者を出さずに犯罪を成功させたい犯人、と四つの視点から暑苦しいくらいの熱量を持ったサスペンスが進行していくのがたまらん。キャストも熱く、高倉健千葉真一宇津井健といった渋いおっさんを中心に、丹波哲郎やら田中邦衛やら小林稔侍がちょっとした役で出たりもしててアホみたいに豪華。更に画面中に力強いフォントの真っ赤な字でタイトルがドーンと出るのも最高だし、そもそも語感の良さといいストレートな単語の組み合わせといい『新幹線大爆破』というタイトルが良すぎる。

まず驚いたのは警察の暴力性で、これは時代がそうだったのだろうなと想像することは出来ても、やはり見ていていい気持ちはしなかった。色んな作品で警察が無能に描かれてしまうのは物語を構築するためにはある程度は仕方がないと思ってるつもりだけど、この映画の警察は粗暴でクズで嫌な感じが本当によく出てた(それだけに倉持指令長の高潔さが際立つ)。事故で頭から血を流して倒れた犯人を乱暴に抱き起こすし、犯人を殺したら爆弾の解除方法が分からなくなるかもしれないのにすぐ銃で撃つし、最後は犯人が少し気の毒になるほど警察の嫌なやり方を見せられることになる。序盤でも刑事が妊婦の頬を強く叩くシーンがあり、これが本当に見るからに痛そうなほどで「うわあ」ってなった。この時のビンタで妊婦がショックを受けたことも死産の原因の一つじゃないかと思うんだけども……。犯人の正体を突き止めるまでは早いけど、それ以外は悪い印象しかない。でも警察のこの描き方が面白いんだよな……ムカムカするけども。

テンポの悪さを感じたのは主に犯人グループの描写にあるんだけど、特に回想はもうちょい抑えめにしても沖田の最期は印象的になったと思う。演技や脚本がどうこう以前に「高倉健が演じる」というだけで沖田の悲哀は成立すると思うので、高倉健の持つオーラにもう少し頼っても良かったのではないかなと思えた。しかしどんな事情があろうと沖田は極悪人には違いないしその事実が哀しいのだけど、別れた元妻と息子を利用されて追い詰められてしまうことになるのがより一層哀しい。

私が一番感情移入したのは総合指令所で、とにかくどんな映画でも監視統御を行う「管制室」のシチュエーションが大好物なんですよね。倉持指令長が格好良かったし、青木運転士とのやり取りも熱い(青木の額から噴き出す大量の汗も見どころの一つだと思う)。終盤、ゼロ地点での停止を命令し、実質には乗客の命を見捨てることになった倉持の、新幹線が無事に止まった後の歓声の中で一人ずっとこわばったままの表情にもぐっと来た。その後も犯人を騙すために、倉持の犯人への必死の呼びかけを利用されてしまうのが、ただただむごい。辞意の言葉と共に零れた「私は、人の命を預かる仕事に疲れたんです」の一言が重かった。この倉持と沖田の虚無感漂う結末のそれぞれ美しさが、やはり一番印象に残っています。