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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』感想

ピーターの恋物語として、ヒーローの在り方や覚悟を問われて苦悩する少年の物語として、『EG』を経た後の物語として、いずれの観点から見ても満足できる代物で面白かった。これを『EG』の後に出して来たのもすごい。

あと面白かったのが直接は登場しないトニーの描き方で、『HC』もそうだったけど要するにスパイダーマンの戦いは毎回トニーに見向きもされなかったり見捨てられたりした者たちによる反乱なんですよね(ヴィラン役がそれぞれマイケル・キートンジェイク・ギレンホールなのがまた味わい深い)。死後も厄介なものを子供に残しているあたりからもあの天才は本当にろくでもないし、イーディスを託しているところからも自分の犠牲を想定済みだったのが伺えてエゴイストだなと改めて実感した。こうしてトニーを「地球を救った英雄」でありつつも、ここに来てもまだ「最悪の人間」としても描いてくれたところが好き。

最悪といえばフューリーもあれこれ手を回してピーターをアベンジャーズの戦いに引きずり込もうとするんだけど、彼はヒドラの残党というシールド内に潜む敵を気づかず飼っていた過去があるし、今回もあんま有能ではないなと思ってたら最後の最後にとんでもないエピソードをぶっ込まれて脳がバグった。さすがに全く気づかなかった……。でもタロスってどっかの星で家族とのんびり暮らしてると思ってたのに何で地球にいるんだ。もしフューリーが引っ張り出したのだとしたら、もうそっとしといたれよと思うんだけども。

今回気になったのはピーターの周りに真っ当な大人がほとんどいないように見えるところで(ハッピーは例外)、トニーはもういないしフューリーは論外だしツアー中の引率の先生はいい加減だしで、ピーターの葛藤をちゃんと聞いてくれる相手がミステリオしかいなかったのが皮肉にも程があるでしょうが。しかもそのミステリオによって正体を全世界に暴露されてしまい、かつて自ら正体を明かしたアイアンマンと同じ舞台に、しかも最悪の形で引きずり上げられてしまったのがもうね……。夏休みを謳歌してMJに告白するんだーって言ってた子が……。でも自分が創造した「架空のヒーロー」をスパイダーマンに壊されたミステリオが、今度は「スパイダーマンというヒーロー像」を壊す流れは上手く出来てるな、とも思った。『HC』のヴィランだったトゥームスが、スパイダーマンの正体を知っても口外しなかったのとは対照的。

そのミステリオはホログラムを駆使してくるのが厄介でめちゃくちゃ強かったし、ピーターの苦悩に寄り添う面倒見のいい先輩ヒーローとしての演技も、最初から疑ってかかっていた私ですら騙されそうになったほどだった。何よりこれまで散財ヒーローを描いてきたMCUがここに来て「幻想のヒーロー」を出してくるの、意地が悪いと思うけどそれが最高。ミステリオの狙いは『EG』を通らないと説得力が生まれないから、『EG』の後であることに意味があるのもいい。動機がはっきりしていることも含め、老獪で魅力的なヴィランだったと思います。

一方ピーターの同級生はいい子ばかりで、特にMJが可愛かった。彼女がピーターを助けるためとはいえブラッドの尊厳を傷つけるようなことも言うし欠点もあるんだけど、彼女自身がそのことを自覚して反省していたし、その彼女が割れたアクセサリーを受け取って「欠点があるほうが好き」って言うのはぐっと来ちゃうよね。ネッドは今回バディ感はなかったけど、事件のスケールがスケールだし要所要所でいい仕事していたので不満はない。あとやっぱりピーターが魅力的な主人公で、捻くれ者の私も彼を素直に応援したくなる。要するにピーターを軸にしたMJ、ネッド、トニー、ハッピー、ミステリオそれぞれの関係がどれも美味しいんだな。

とにかくこれで最新作まで追いついたので、MCU履修は完了した。長かったはずなのに終わってみればあっという間だった。この達成感よー。たいへん楽しい時間でした。