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『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』感想

中弛みもあったけど、こーゆードロドロした話は好みなのでまあまあ楽しかった。音楽や映像表現も面白かったし、スケートのシーンも実際の中継で見るような撮り方とは違う迫力や美しさがある。そしてトーニャ役のマーゴット・ロビー、ジェフ役のセバスチャン・スタンの鬼気迫る演技もいいんだけど、ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイがすごいな特に。ちなみにこの映画はブラックコメディだと思ってるんだけど、一番笑ったのがラヴォナの出番が途絶えたなと思い始めた途端に「私の話が出てこないんだけど、どうなってんの?」とラヴォナが割り込んできたシーンだった。

トーニャと母親と元夫のインタビュー映像を差し込みながら当時を振り返るというドキュメンタリーのような構成になってはいるものの、全員が自分勝手だから発言が食い違うし真実の保証は一切ない。食い違う発言を弄らずそのまま見せているのは真摯ではあるけど、おかげでちょっとガチャガチャした印象も受ける。そのガチャガチャしたところを楽しむという意図もあるのだろうけど、何よりもゴシップの娯楽性の高さを実感させられるのが肝なのかなと。「各人のインタビューを元に作り上げられていくトーニャの物語」という映画の内容を信じることは、その映画でまさに描かれていた「かつてマスコミによって作り上げられた "クズのトーニャ像"」を真に受けた世間となんら変わらない。トーニャやジェフが観客に話しかける演出が入る点からも、それを皮肉っているように思えるんですよね。

しかし真っ当な人間がほぼいないのはすごいな。母親はスパルタな毒親で、トーニャの貪欲な承認欲求はここに起因しているように見える。でもオリンピックを狙えるような選手を育てるには莫大な金が必要になるし、スケートをやりたいというトーニャのために貧困層の身で金なり衣装なりを用意するのは並大抵の覚悟で出来るとも思えないから、愛情がなかったわけではないのだと思う。娘がスケートで儲けてくれることを視野に入れるのだとしても、必死に稼いだ金をすべてトーニャのために使うのは博打が過ぎるし、リンクの上で舞うトーニャを見る時の目はいつも真剣だった。しかし母の罵倒があったからこそトーニャが這い上がれたのだとしてもそれは結果論でしかなく、親の愛に飢える娘には酷だと思うしラヴォナのこうしたスタンスが正しかったとも思えない。それだけに、やっとオリンピックへの道が見えてきたところにキャリアを潰されてしまうトーニャが痛々しかった。「庭師と花」の例えが作中でも出てきたけど、ショーンという外部の人間にトーニャの才能という名の花が無惨に踏み荒らされてしまったような図で、ショーンが妄想症にしか見えないことや実際の犯行がお粗末だったことも含めてやり切れない。まあラヴォナとジェフは花を育てると同時に毒をばら撒く庭師でもあったけども。

不満はジェフとのダラダラした関係が細切れにダラダラ描かれて、中盤以降はダラダラしてくる点。毎回どっちもどっちとしか言えない不毛な喧嘩ばかりで「またか」ってなっちゃうのもある。正直、私がこの映画を素直に楽しめなかったのはこれが大きい。魅力は確かにあるんだけどそれ以上に飽きることも多かったのが、いかにもゴシップ映画らしいっちゃらしい。