ロログ

ネタバレ映画感想とかいろいろ

『セッション』感想

生々しく迫力のある演奏描写も凄まじいけど、それにも劣らないほどに自己中心的なニーマンとフレッチャーの関係描写が圧巻だった。

面白かったのがニーマンはドラムに傾倒していくのかと思いきや違ったところで、実は彼が病的に傾倒していくのは自尊心を満たすことの方なんだな。その手段がドラムになってしまった。元々ドラムが好きで上昇志向の強い青年ではあったけど、彼をそのように変えてしまったのは言うまでもなくフレッチャーであり、ニーマンの承認欲求をコントロールして他の生徒も利用する彼のやり方は罵詈雑言以上に暴力的だった。

そうしてフレッチャーの支配により育てられたニーマンが覚醒する瞬間は鳥肌が立つ。大学を辞めさせられた復讐にニーマンに恥をかかせるフレッチャーはバンドのことなんて露ほども考えてないクソ野郎なんだけど、自分のドラムで指揮者フレッチャーからイニシアチブを奪ってその場を支配するニーマンもまた自分のことしか考えておらず、でもそれでこそ復讐を達成してしまったのが凄まじい。フレッチャーの求める「完璧」とは超絶技巧による高みへと昇り詰めることだったけど、自分の実力で捩じ伏せる、という正当なやり方で復讐を遂げたニーマンは「完璧だ」った。そんな完璧な復讐に至ったニーマンの存在こそがフレッチャーの求めていたもので、だから非人道的で誰にも理解はされないけど、それでも「屈辱」こそがあそこまでの演奏に導くのだとフレッチャーは自らの勝利を確信する。大学を辞めさせられてしまったフレッチャーの、このまさかの逆転劇に震えた。そうして幾重にも重なった復讐の末に、二人の魂がようやく交差するのも最高。フレッチャーのやり方は大学を辞めさせられたことでちゃんと否定されてるんだけど、彼のやり方が超一流を生み出すこともある、という事実も真理なんだろうなと。しかしあの至高の瞬間を体験してしまったフレッチャーはますます考えを変えないだろうけど、まだ若く才能もあるニーマンにとっては "呪い" にもなりそうなのが何とも。