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『トゥルーマン・ショー』感想

トゥルーマン・ショー (字幕版)

トゥルーマン・ショー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

何も知らされぬまま、自分の人生を生まれた時からずっと全世界に生放送で晒し者にされているトゥルーマンという一人の男の壮大な物語で、設定から胸糞感が漂うけど最後まで胸糞だった。序盤は退屈だったけど途中から盛り上がってきて、最後には胸糞名作映画だと思えた。面白かったです。こんな人権も何もない番組を容認している世界が恐ろしくなるけど、現実でも近いものとしてリアリティショーが該当するんでしょーか(あの手の番組には興味がないのでぼんやりとしたイメージで言ってるけども)。しかしこれ、映画を見ている自分が映画の中の視聴者と同じ立場にされるどころか強制的にもう一段上のレイヤーから見ることになってしまうのが、本当にもう「この野郎」と思ってしまうんだよな。でも楽しんでしまったから尚更「この野郎」と言いたくなる映画でした。この野郎この野郎。

トゥルーマンだけでなく「主役」を取り囲むキャスト陣も面白くて、妻役を演じたメリルは特に印象に残る。夫婦役の二人が車でぐるぐる回るシーンと、おかしくなったメリルがココアの宣伝を始めるシーンは狂気が出ていて良かった。世界中の視聴者を満たすためだけに好きでもない男の子供を産むかもしれないと考えるとゾッとするし、彼女が錯乱するのは理解出来る(なら最初からやるなと言いたくなるけども)。その後フォローに回るマーロンは演じていて心が痛まないのか、と思ったけどクリストフの台本通りの台詞を口にする時がちょっと辛そうに見えて、彼ももしかしたらしんどいのかもしれないなと思った。よく考えたらメリル以上に彼のほうがトゥルーマンとの付き合いも長いのだし、その間ずっと演じ続けてきたはずだから人生をこんなことに捧げているわけで、はっきり言ってやばいですよこれ。私なら耐えられそうにない。

気になったのが、トゥルーマンに真実を知られる隙の多さ。こんなおぞましいイベントをやるならやるでもっと徹底せんかい。今までよく持ったな、と呆れるほどにガバガバで笑う。予想外の行動に出るトゥルーマンに振り回されるスタッフも見ていて痛快だった。

終盤は父であり神でもあろうとして支配欲に溺れたクリストフと、支配から脱出したトゥルーマンの対話がたいへん素晴らしい。嵐に襲われても諦めないトゥルーマンに釘付けになっているクリストフの表情そのものが、シナリオにない "リアル" な展開の方が比べ物にならないほどにずっと面白いのだということを証明してしまっているのがいい。そして「念のため、"こんにちは" と "こんばんは" を」とお馴染みの挨拶を告げ、カーテンコール中の舞台役者のように恭しく一礼してトゥルーマンが外の世界へと去っていく結末は洒落ている。魅力的な主人公でした。

しかし「トゥルーマンの脱出成功」という全世界の傲慢な視聴者に対する反乱とも言えるこの展開すらも、視聴者は娯楽として享受してしまうのがもうアレ。酒場で番組に釘付けになっていた人々が熱狂するシーンは視聴者の無責任な偽善がよく出ていたし、すぐにチャンネルを変える警備員のシーンで終わるのが皮肉として効いており、映画の終わらせ方としても秀逸で好き。そしてこの映画を見ていた私も例外ではなく、やっぱり最後も「この野郎」と言いたくなって終わった。この野郎。