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ネタバレ映画感想とかいろいろ

『スウィング・キッズ』感想

大国の代理戦争と化した朝鮮戦争で分断の渦中にある収容所を舞台に「Fuckin’ Ideologie」と叫ぶミュージカル映画。とにかくキャラクターの想いを乗せたタップダンスが圧巻で、戦時下でも溢れ出るダンスへの渇望が凄まじい。ホールや収容所のあちこちを靴で打ち鳴らす歓びに満ちている。躍動感のあるカメラワークも素晴らしく、思わずそれぞれの脚に魅入ってしまった。これほど脚が雄弁に語る作品は初めてかもしれない。人種差別やアカと親米の対立もあって「踊りたい」という純粋な理由さえ許されない世界だからこそ、寄せ集めの多国籍なチームから迸る情熱を画面越しに感じて震えた。

しかしその想いが臨界点に達するクリスマスのステージで拍手を浴びた後に、地獄を見せられるんだから本当に慈悲がない。このクライマックスのパフォーマンスでは、ギスはロバート所長の下衆な思惑だけでなくサムシクからの抹殺命令もあって文字通り "踊らされていた" んだけど、そんな理不尽な状況であっても「どうしようもなくダンスは楽しい!」という気持ちが身体中から溢れていたのが泣けた。踊っている時の表情がまたいいんだけど、最初はなかなか素直になれなかったギスだから余計に胸に迫るものがあったな……。一人で踊るギスを通してカーネギー・ホールを見るジャクソンの視点もぐっと来たし、同時にここでギスはやっぱり殺されてしまうのだなと分かってしまった。グァンググ主導による蜂起から露わになって来るけど、これは戦争映画でもあるのだと思い知らされる。

最後の最後に、列強の面子や同じ国民同士の紛争に利用されるでもなく思いのままに踊るギスとジャクソンのダンスバトルを持ってきたのはずるい。そこからビートルズの「Free As a Bird」が流れるエンドロールに突入するのもいいな。傑作でした。