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『フォード vs フェラーリ』感想

フォードvsフェラーリ (字幕版)

フォードvsフェラーリ (字幕版)

  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: Prime Video

レーサーのマット・デイモンとメカニックのクリスチャン・ベイルが友情パワーでギュインギュイン車を走らせながら優勝を目指す話、だと思ってたら全然違った。でもめちゃくちゃ面白かった。今となってはちょっと懐かしくもある「男の戦いの美学」をストレートに描いた、長いけど無駄のない名作でした。

しかしタイトル通りフォードとフェラーリの戦いの話ではあるんだけど、そこは舞台装置のようなもので実際は「現場 vs 大企業の重役」と書いた方が正しい。そんなストーリーを盛り上げたのがジョシュ・ルーカス演じる副社長で、最後までブレないある意味筋の通った(通さんでいいのだが)クソ野郎だったのが本当に上手かった。官僚主義の権化としてのキャラクター造形が完璧すぎる。

強烈なクソ野郎なら例えば『新感染』にもいたけど、あちらは「ここまで見事に状況を悪化させるやつはそうそうおらんやろ」ってなくらいに振り切ったファンタジー的な存在だったのに対して、こっちの副社長の横槍には説得力があり、違う視点で見れば有能ですらあるんですよね。だからこそめっちゃくちゃ腹が立つ。ずっと「ちんこ蹴るぞこの野郎」って怨嗟の呻きが漏れ出てたもんな私。例えると『新感染』は全打席ホームランを打つようなクソ野郎だけど、こちらは全打席出塁するようなクソ野郎で、どちらも良く出来たキャラクターでたいへん素晴らしい。そもそも真剣にレースと向き合うフェラーリ社に対し、舐めプ感漂うフォード社がどうしようもないのだけど、レースに参加するのも二世社長の「フェラーリに馬鹿にされたからいてこましたる」って個人的な動機にあるのがな……(まあフェラーリも相当に阿漕なことをやってるんだけども)。

そんな企業に振り回される主人公二人がまた気の毒というか、中間管理職の悲哀がよく分かるだけに切ない。贅肉で肥え太った傲慢な企業に、頑張っている現場の人間が押し潰されてしまうのは見ていて本当に辛い。主役二人が魅力的だからこそ尚更。でもそれがすんごい面白い映画だった。どちらもキャラが立ってたけど、マイルズとフォードの間に立たなきゃならないシェルビーが特に好き。基本的には上からの理不尽な要求を飲まざるを得ない中、ダイナミックな操縦で飛行機を着陸させて重役をびびらせたり、ファイルが色んな人の手に渡ってからようやくフォードの社長との面会が叶うシステムに嫌味を言ったり、惨敗したのにフェラーリをビビらせてやったのだと懇切丁寧に語ってから最後には「礼はいい」とのたまったり、副社長を部屋に閉じ込めた後に社長を連れてレーシングカーをギュイギュイ乗り回したりするシーンが痛快で最高。マイルズの破天荒なキャラクターが目立つけど、シェルビーも同じくらいにめちゃくちゃな男なので、この二人は正反対なようで案外似た者同士だと思う。

マイルズも新車発表会で副社長に嫌味を言う時の表情とか絶妙で好きなんだけど、やっぱりラストで決断を迫られて長く苦悩するシーンがとてもいい。レーサーとしてのプライドを踏みにじる指示を受け入れたのは、シェルビーのためなんだろうと思うと泣ける。結果は残酷なものだったけど、シェルビーの労いとエンツォ・フェラーリがさり気なく敬意を表したことに救われたし、最後に肩を並べて歩く二人の背中にもぐっと来た。あとそれぞれの形でマイルズを支えるモリーとピーターも良かった。この手の主人公の家族は拗れるパターンをよく見るので、理解を示して応援する二人が強く印象に残るというか。

肝心のレースシーンも臨場感が凄まじく迫力があるし、何よりびっくりするくらい見やすかった。フェラーリとの勝敗よりも、レース中のマイルズやシェルビー、ボックスにいる重役を中心に映していたのが面白い。目の前をマイルズが走り抜けるたびに見送るシェルビーやクルーの表情もいいんだよね。サングラスをかけててもいい顔してるのが分かる。ピットインした時も、一丸となってテキパキとメンテしたり指示したりするのが熱い。あと音楽も良かったな。エンジン音もいい。これは映画館で見たかったです。